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ビタミンDのQ&A

 

 

 ビタミンは体の中で作ることができないか、少ししか作れないために食べ物から補給する必要がある物質です。炭水化物・タンパク質・脂質のような栄養素ではないものの、決して欠かすことのできないものです。私のクリニックでは、手足の関節痛や骨粗しょう症の治療でビタミンDをよく使っています。今回はちょっと突っ込んだお話です。

 

1 キノコにビタミンDが多いのはどうして?

 

 サーモンなど海産魚の切り身、レバー、キノコ。ビタミンDが多く含まれている食べ物です。動物由来の食品でビタミンDが多いのはわかるのですが、キノコは?と思いませんか。じつはキノコは植物ではありません。真菌類という全く別の生き物です。はるか昔、単細胞の生物からさまざまな生き物が枝分かれして進化しましたが、キノコのご先祖は植物が生まれるずっと前に枝分かれしていて、どちらかというと動物のご先祖に近いのです。野菜売り場にキノコが置いてあるのはある意味不思議なわけですね。

 

 あらゆる動物の細胞では、表面がコレステロールを含んだ物質でおおわれているのですが、植物の細胞はセルロースという物質で覆われています。ところがキノコの細胞表面はコレステロールとよく似た物質が含まれていて、これに日光が当たるとビタミンDに変化するのです。やはり生い立ちが動物に近いからでしょう。人間の肌に日光が当たるとビタミンDが合成できるのですが、これとよく似たしくみなのです。

 

2 ビタミンDは骨のビタミンなの?

 

 ビタミンDのはたらきには骨を強くすることが含まれますが、ほんとうのはたらきはカルシウムの新陳代謝です。体中のすべての細胞の中でカルシウムは重要な役割を担っています。複雑な機械…たとえば飛行機でたとえるなら、パイロットが操作するさまざまなスイッチの役割をカルシウムは行っています。筋肉細胞の場合は筋肉に力を入れる、つまり収縮させるときにカルシウムが働きます。脳細胞が活発に働くときにも、免疫細胞が機能するときにもカルシウムが働きますから、体中のあらゆる機能にビタミンDがかかわっているといっても過言ではありません。

 

 ですから骨粗しょう症のみならず、うつ病、免疫疾患、アレルギー、感染症やがんなどさまざまな病気でビタミンDが有効であるという報告がでているのです。

 

3 ビタミンはどうやって作るのか

 

 肝油ドロップをご存じでしょうか。いまでも売られていて私も愛用しています。もともとはタラなどの魚から抽出されたビタミンD・Aを栄養食品として販売していました。臭いを抑えるため糖衣をつけたドロップ状にして、かわいい缶に入れて学校で売られていました。現在では植物由来の成分と化学合成を組み合わせて作られていますから、水銀など有害物質の混入もなく、安全な製品が作られています。これは薬品会社も同様です。

 

 ところが昨年、日本ではビタミンD製剤の供給が底をつきかけるアクシデントがありました。ジェネリック医薬品の製造会社数社がほぼ同時に操業停止になり、たくさんの医薬品の供給不足が起きたためです。その後操業再開したものの、原材料は海外から輸入しており、一気に増産というわけにはいかなかったようです。私のところでも一時ビタミンDの長期投与を控えていたのですが、今はだいぶ落ち着いてきました。

 

4 なぜ関節痛にビタミンDが効くのか

 

 はじめにお伝えしておくと、すべての関節痛にビタミンDが効くわけではありません。関節周囲の骨強度が落ちてきて日常生活の動作でも骨の痛みが起きる(骨内の痛み神経が刺激される)場合に有効です。そんなことがあるの?といぶかる方がいると思いますが、新コロナウイルスの流行が始まってから急激に増えた印象です。

 

 微細な骨の変化なのでレントゲンだけでの診たてがむずかしく、関節を動かしたときの痛みの出方を調べたり、かすかな熱感や腫れの有無をチェックして判断しています。たとえば手指を握った時の痛みの出方、歩行時やしゃがむときの痛みの出方に注目して診察します。そしてビタミンDを内服してもらうと、痛みが改善、消失します。一か月ですっきりする人もいますが、もっと時間がかかる人もいます。おそらく骨強度の低下にかなりの個人差があるからだろうと考えています。

 

 そして日光浴が大事です。理論上日光浴だけでビタミンDの必要量を体内生産することができるといわれていますが、服装・ライフスタイルから十分に日光を浴びていない人が大半と思います。また授乳中のお母さん(そして母乳栄養で育つ赤ちゃん)、年配の方(ビタミンDの合成能力が低い)、肌の色が黒め(後天的な日焼けを含む)の人はビタミンDの不足が起きやすいので注意が必要です。ハワイのサーファーたちでも半数以上がビタミンD低下だったそうですから、(まさか自分が?)と思う方でも関節痛が出たら、一度は疑ってみる必要があります。

 

 ビタミンDの体内半減期は30日未満であるといわれているので、意外と簡単にビタミンD不足になるかもしれません。ふだんから肝油ドロップやサプリを使って予防するのもおすすめです。ただし摂りすぎは体に悪く、ビタミンD中毒になることがあります。過ぎたるは及ばざる…というわけです。