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リハビリを乗り越えるには

 

 

 掲示期間が短い一月号ではエッセイ風に書くことが多いです。8歳のときに足の骨を折り治療を受けたのですが、3年前にも足の骨を折り、子供のころより治りは遅いしリハビリも時間がかかると痛感しています。今回はリハビリの苦労と楽しみを書いてみました。

 

1 若いってすばらしい

 

 だいぶ前のことです。当時勤務していた病院に3歳のこどもが入院してきました。大腿骨と骨盤が折れる大けがです。さっそく上半身から折れている足のつま先あたりまでギブスをまきました。これだけ折れると内出血が激しく、亡くなる人もいますからまわりはたいへん気を使いました。

 

 1週間後、なにげなく廊下を歩いていると病室から「キャッ!キャッ!」と声がしました。振り向くと、あのギブスをまいた子がベッドの上でぴょんぴょん飛んでいました!あわてて駆け寄ったものの、楽しんでやっているのにびっくりしました。回復が早く、1か月くらいで退院しましたが、以降もときおり診察する機会がありました。骨はついたもののかなり変形があったのですが、高校生ぐらいになると、見た目も機能的にも問題ないくらいに矯正されており、これなら絶対オーケーと太鼓判を押せるようになったのです。

 

 子供の回復力はほんとうにすごいです。それに比べると・・・やはり年をとればとるほど治癒の力は弱くなり、回復にかかる時間も長くなってきます。でも、それは治らないということではありません。時間はかかるし、工夫もいるが、いくつになっても治る力は残っています。

 

2 リハビリの障壁

 

 治る力は残っているが、それが働きにくい場合があります。

 

・からだの調子に問題あり…はっきりした病気や、疲労の蓄積、睡眠不足や栄養のアンバランスなど回復力に悪影響を与える理由があるときです。

 

・リハビリがかみ合っていない…無理をせずからだを休める時期、少しづつ刺激をかけて回復を促す時期、持久力・筋力・スキル向上のため自分で汗をかかなければいけない時期があります。ありがちなのが①あせって休養が大事な時期なのに早めに強い刺激をかけて、かえって回復を遅らせてしまう②楽をする時期とがんばる時期の切り替えができず、楽な方向に向きすぎる③病院やリハビリから徐々に離れ、広い世間に自分の創意と工夫で向かい合っていく時期なのに、なかなかふんぎりがつかない、などのケースです。

 

・医療・リハビリの力不足…まだまだできないこと、工夫が足りないことがいっぱいあります。医学は物理や化学のようなハードサイエンスではなく、科学っぽいところからむかしながらの経験の積み重ねまでを集めた雑多な世界です。ハードはまだまだ足りないし、知恵や工夫もまだまだ足りないでしょう。

 

3 リハビリの苦労と楽しみ

 

 足に力が入りにくく、つまさきがひっかかって転びそうになる。足うらがつる。指先がしびれる。走るとすぐに疲れて休みたくなる。腰やモモが張って夜にぐっすりと眠れない。紙に書くとこんな感じでリハビリを続けていますが、ちょっと動き方を変えたり、トレーニングの仕方を変えてみたりすると、毎日なんらかの気づきがあり、ちょっとだけ進歩があります。松葉づえで歩いていたころから見ると長足の進歩ですが、まだまだ先は長い。そう感じています。

 

 だれにでもいいときがあり、悪いときがあります。いいときばかりだといいのですが、それはあり得ないでしょう。だからどんな時でも楽しむ気持ちを忘れない。リハビリをいやいやするのではなく、その過程を楽しむ。楽器を演奏する人が練習を楽しむように、運動選手が練習を楽しむように、私もリハビリを楽しむ。そうありたいと思っています。

 

4 人生はリハビリ 

 

 先日山の中を駆け抜けるトレイルランニング大会に参加してきました。まだちゃんとは走れないのですが、山の中は上ったり下ったりで歩きだけでもなんとかなるのです。登りは得意なので何人も抜けるのですが、下りはあっという間に抜かされます。というより、どうぞどうぞという感じで先に行ってもらいます。先はまだまだ長い、山の中を一人でゆっくりと下っていっても、動き続ければ必ずゴールにたどり着きます。自分のペースでいけば何時ごろにどのチェックポイントに到達できるのかわかっていますから、ケガをしないこと、栄養補給をしっかりすること、脱水を予防することを守ればいい。レースと名がついていても、私のレベルではまさに自分との戦い、他人との競争ではありません。

 

 天気は良く、ときおり鳥の鳴き声が聞こえます。落ち葉に木漏れ日があたってキラキラ輝いて、まるで春の花のようです。こういった大会に幾つまで出場できるかわかりませんが、あきらめずに続けようと思っています。またひとつ年を取ったら、それはまた新しい体験、一日一日が冒険です。こうやって考えていると、「人生はリハビリ」という言葉が思い浮かびました。自分で自分に働きかけること、すべてがリハビリ。日は沈んできましたが、ゴールまであとひとふんばりです。