なかなか根強い人気があるシップですが、日本以外ではほとんど使われていないのをご存知ですか?シップがない国では困っていないのかな?なくても平気なのかな?今回の話題です。
1 シップの効能
シップの原型は薬草を砕いたものを粘土などに混ぜて直接体に塗ったり、布地に塗って貼り付けたものだったようです。打ち身や切り傷の上に貼ることで痛みを和らげたり、回復を早めることを狙ったのです。たしかに薬草の成分にはけがに効くもの(たとえば柳の葉→アスピリン)がありますから、いろいろな薬草が使われたことでしょう。今でも世界各地で同様の方法が使われているはずですが、いわゆる民間医療とみなされているのかもしれませんね。
シップの働きは①水分が蒸発することで皮膚の熱を持ち去る②薬剤を皮膚から浸透させる③メントールの清涼効果の3つだと考えられています。①は気化熱という現象を利用したもので、これは結構大事な効果です。濡れたタオルや氷を持ち歩くよりずっと簡単に患部の冷却ができますからとても便利です。でも乾いてくると効果が薄れるのは欠点です。
②については実験があり、有効成分が皮下3ミリまでは達することがわかっています。たったの3ミリと思ってしまいますが、ここから毛細血管に吸収され近隣の組織に入り込んだり、血行により全身に回ってから効果を及ぼしているのでしょう。だからシップ=安全というわけではありません。鎮痛消炎剤の入ったシップをたくさん貼れば、全身に影響を及ぼす可能性があるわけです。年配の方、妊婦さんや喘息・腎臓病のある方は特に気を付けてください。
③のメントールの香りは皆さんおなじみだと思います。メントールはミントの主成分で、胃もたれや呼吸器疾患の治療にも使われています。貼った瞬間すっとするのはこの成分の効果です。
2 シップが「効かない」と言われるわけ
ここまで読むと、シップが効きそうな気がしませんか?その通りです。急性期の炎症、打ち身・ねん挫などに効果を発揮します。でも、一般の外来でよくある症状、肩こりや腰痛などには効果がないか、あっても一時的でしかないと考えられています。
筋肉にせよ、骨や関節にせよ、実際にコリや痛みを訴えるのには複雑な理由があります。体の加齢現象、慢性炎症(急性炎症とは全く別物)、生活習慣、ストレス、疲労の積み重ね、認知のゆがみや思考パターンの癖など、シップや薬で解決できないことがごまんとあることがわかっています。だから漫然とシップを貼り続けても、たいした治療にならないと考えるのは筋が通っていると言えます。
国や自治体もお金が足りなくなっていますから、健康保険で賄える薬の使用には目を光らせていて、シップの利用にチェックが入りやすくなっています。ここぞというときにはOKだが、だらだらと使うのは避ける。お財布(自分も国も)のことも考えて使いましょう。
3 東洋医学とプラセーボ
点温膏(てんうんこう)という膏薬があって、たまに肩こりに使っています。シップと異なり小さい貼り薬なので押して痛いところをみつけて数か所貼ると良く効きます。「押して痛いところ」とさらっと書きましたが、これが阿是穴(あぜけつ)と言われるもので、東洋医学のツボの基になった現象です。東洋医学のメカニズムにはまだ謎が多いですが、現場のお医者さんとして安全で役に立つのであれば試していいのではないかと考えています。
シップを小さく切ってつぼ(経絡)の上に貼る。書きながら思いついたのですが、今度試してみたいです。
もう一つ、シップにはプラセーボ効果がありそうです。薬効とは別に、「貼って安心できる」なら期待以上に効くことがあるかもしれません。日本人のシップ・膏薬好きを考えると、案外馬鹿にできないアイデアだと思います。
4 うまくシップと付き合う
よく「温めるシップと冷やすシップのどちらがいいのか?」と質問を受けます。じつは医療用のシップでほんとうに温めるシップは存在せず、貼った時ヒヤッとするかしないかの違いと思ってください。見た目が白いほうは、より水分を多く含んでいるので冷やす効果が高いです。ですが肌色のシップのほうが伸び縮みしやすくはがれにくいので、こちらを好む方も多いです。
シップではないのですが、活性炭入りの温熱パッドを使用する方も多いと思います。これからの季節、冷え性の人に愛用されますが、パッドが直接肌に当たらないよう気をつけてください。特に高齢の方は低温やけどになりやすいので注意が必要です。