
2年続きでたいへん暑い夏が続いたので、今年がどうなるか心配です。例年暑い時期にも運動を心がけていましたが、昨年は体調をくずしてしまいました。今考えると慢性の脱水になっていたのだと思っています。今年の夏を乗り切るためにたいせつな「水」のお話です。
1 からだの大部分は水でできている
人のからだは約37兆の細胞でできています。地球全体の人口が80億人と言われていますから、どれだけ多いのか見当もつかない数と言えるでしょう。でもその一つ一つの細胞が体液にかこまれていて、そこから栄養や酸素をもらったり、老廃物を洗い流してもらっているのです。赤血球・白血球のように体液の中を漂っているか、あるいは内臓や筋肉のようなかたまりへ体液がしみ込んでいくかのちがいはあるものの、海水とほぼ同じ濃度の体液の中で暮らしているのがあらゆる細胞の共通点です。だから、脱水になるとすべての細胞が影響を受けます。
一般的に体重の60~70%は水でできていますから、体重60キロの人なら40キロ弱、すなわち40リットルが水でできています。水分2リットル(体重の3%)以上の脱水が起きるといろいろな症状が出てくると考えられています。
2 不感蒸泄と発汗
不感蒸泄とは「自分では全く汗をかいていないと感じていても、気づかないうちにからだから失われている水分」のことです。体重60キロの人で一日900ml の不感蒸泄があると言われています。気温が上がると不感蒸泄も増えていき、運動の最中は6倍まで増えたという報告があります。
そして発汗です。汗ばむような運動をしているとき、だいたい1時間当たり1~1.5リットルの汗が出ると言われています。汗っかきの人だともう少し多いかもしれませんが、運動中は30分で500mlのペットボトル1本は飲むべきと思ってください。
以前山の中を71キロ、24時間以内にゴールするレースに参加したことがあります。6リットルの水を担いでスタート、途中で1.5リットルの補給をして完走できましたが、計7.5リットル飲んでもまだ脱水気味だったです。外来で話を聞いていると(水分が足りないのでは?)と思うことがしばしばです。暑い季節になったら、不感蒸泄900ml+300ml(一日の尿量-食物からとる水分量)=1200ml/日の水分補給では絶対足りないです。迷ったら水分は多めに取りましょう。
3 脱水の症状
砂漠地帯で十数日間さまよい、後に生きて発見された人の話を読んだことがあります。皮膚にしわがより唇が縮み歯がむき出しで、まるでミイラのように見えたそうです。声帯が縮んで悲鳴のような音しか出せなかったとか。ここまで極端なケースでなくとも、ふだんから水分の摂り方が少ない人が暑さなどで発汗(エアコンですぐ乾くので気がつかないことも多い)が増えるとき、本人や周りも気がつかないうちに脱水が進んでいるかもしれません。
脱水の初期は、筋けいれん・頭痛・口の渇き・微熱・皮膚の乾燥などがおきます。中等度ではいらいらした(興奮)状態になり、進めば意識障害⇒死亡することもあります。先日ハーフマラソンの救急室に勤務したとき、脱水になった人のほとんどは足の筋けいれんくらいでしたが、一人意識障害を起こした方は救急車に乗りました。
4 脱水になりやすい人と対策
- 高齢者・・・体液の大部分は筋肉内にあるので、筋肉量の少ない高齢者は脱水になりやすいです。①もともと渇きを感じにくくて飲水量が少ない②薬(利尿剤など)や加齢の影響で尿量が多い③発熱や下痢がある④糖尿病やホルモンの病気(アジソン病・尿崩症など)があるとさらになりやすいです。
慢性的な脱水になると反対にのどの渇きが減り、ふらつきや失神が起きやすくなります。脱水になると血中の薬物濃度が高くなり、ふだんは見られない副作用(睡眠剤が効きすぎる・血圧が下がりすぎるなど)が出てきます。失禁や夜間のトイレを心配して水分をとりたがらない方もいますが、やはりきちんと摂りましょう。
- 子ども・・・大人より水分量が多く赤ちゃんは70%を超えます。熱発や下痢があるとき、とくに暑い夏は心配です。大人に比べからだが地面に近いので、照り返しの影響を強くうけます。吐き気などで水分が摂りにくいとき、経口補水液(OS-1など)やスポーツ飲料を少しづつ飲ませてください。
- アスリート・・・電解質も失われるのでスポーツ飲料(経口補水液)は良いです。持ち運びが大変な人は粉のタイプもあります。塩飴や塩梅もいいですね。レースの時など給水を意識するあまり水中毒(これはこわい!)になることがありますから、おなかがちゃぽちゃぽ鳴る(飲んだ水が吸収できていないサイン)ようなら給水のペースを落としましょう。
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