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坐骨神経痛のつきあいかた

 

 

 坐骨神経痛とは私自身長いつきあいをしています。良くなったり悪くなったりしながらもなんとかやってきました。100キロのウルトラマラソンを走ったり、夜通し山の中を駆け回るレースにも参加できました。でもときどき足がしびれたり、神経痛になったり…これまでの経験からお話しします。

 

1 坐骨神経痛は悪い病気ではない

 

 中学生のとき、股関節あたりが急に痛くなることがありました。今考えれば、あれは坐骨神経痛(ヘルニアが原因?)だったと思います。大学生のころ、スキーに行ったのをきっかけに左下肢のしびれ・痛みが出ましたが動けないほどではないので様子を見ていました。医師になりたてのころ、からだの重い患者さんを持ち上げてぎっくり腰になりかかりしばらく腰下肢痛が続きました。

 

 といろいろあったけれど、それでも仕事、育児や家事を行い、やりたいスポーツもできたから良かったと思っています。60過ぎてもまあまあからだを動かせているのは幸せだと感じています。

 

 外来で腰下肢痛の相談を受けた時、10中8,9は良くなったり悪くなったりをくりかえしながらもなんとかやっていけるケースです。お医者さんの手伝いも時に必要ですが、坐骨神経痛の経過は一般に良好で、必要以上に怖がる必要はないといえます。

 

2 症状がおこるしくみ

 

 坐骨神経痛が起きる理由はさまざまですが、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症など背骨の中で神経が圧迫されたり刺激されるケースが大半です。ヘルニアは若い人に多く、脊柱管狭窄症は年配の人に多いですが、ヘルニアの人も年齢が上がるにつれて狭窄の症状が出てくることはけっこう多いです。かつてはヘルニアが一度できると治らないと考えられていましたが、1、2年かけてヘルニアが自然に消えていくケースがあることがわかってきました。

 

 脊柱管狭窄症の場合、変形そのものは何十年もかけてしだいに進んできます。ところがある時点で急に発症してくるのはなぜでしょうか?たくさんの患者さんを診ていて、①背骨をそらす動きが多い②長時間じっとしていることが多いと発症しやすいと感じています。①は姿勢のトレーニング、筋トレやストレッチ②はからだをこまめに動かす習慣作りをアドバイスし、様子を見ます。改善には数週間~数か月かかり忍耐と実行力が求められますが、手術をせずに良くなる方はけっして珍しくありません。

 

3 手術は必要?

 

 脊椎外科医のトレーニングを受けてきたので手術のやり方はよく知っています。ですが、やらないで済むなら手術をしない方がいいと考えています。腰部脊柱管狭窄症の場合、①はっきりと脊椎に原因があり②手術以外の方法をきちんと行っても効果がなく③日常生活を送れないほど痛みやしびれが強く④全身状態や認知能力がしっかりしており⑤歩きたいという強い希望がある人なら手術で良くなるチャンスが大きいと言えるでしょう。

 

 ヘルニアの場合、非手術的方法が治療の基本になっていますが、痛みが強く仕事や学校生活に支障が大きい場合は手術も考えていいでしょう。タイプによってはメスを使わずに注射でヘルニアを吸収する方法も開発されています。また下肢痛の原因が関節・筋肉・じん帯の痛みのこともありますから、手術を受ける前にほかの原因がないかきちんと診てもらうことも必要と思います。

 

4 私が考えるつきあいかた

 

 坐骨神経痛では、ほとんどの方の症状が改善し元気に動けるようになります。でも脊椎の年齢的な変化は必ず残りますから、再び痛みが出にくいように体づくりを心がけましょう。

 

からだをやわらかく・・・脊柱管狭窄症の人はとくに股関節、それも後ろ方向に股関節が伸びるようにストレッチをしましょう。ただし股関節を伸ばそうとして、背中を一緒に反らすと逆効果になりますから気をつけて。ヘルニアの人は太腿うらの筋を伸ばすといいでしょう。

 

姿勢に気をつけよう・・・反りもせず前こごみにもならない姿勢がベストです。年をとると自然に姿勢が丸くなってきますが、ベストの姿勢は年齢によって変化します。若い人のように立つことを意識し過ぎず、自分にとって無理のない姿勢をとることを心がけます。ヘルニアの人は前こごみの姿勢・作業を長時間続けないように。

 

ちょこまか動く・・・ずっと椅子に座り続けたり、長いこと立ち続けたりはまずいです。でも通勤はするし、仕事をするのにどうすれば?ちょっとしたことでもすぐに立ち、すぐ戻りましょう。立っているときはときどき背骨を前後左右に曲げ伸ばしして楽な位置が見つけます(コツがあるので私やスタッフに聞いてください)。

 

有酸素運動を・・・神経内の微小な血行障害が発症の要因とも考えられています。毛細血管の血行を良くするために、息が弾み汗ばむくらいの運動を習慣にしましょう。

 

 

 

 

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