一枚の顔写真を見せられて、まだ会ったことのない人を判断せよと言われたらどうでしょうか?人生経験が増えればある程度の予想はできるかもしれませんが、実際に会ってみたら大ちがいということはめずらしくありません。骨と筋肉の痛みの診わけもこれとよく似ています。
1 神経が通っていない部位は痛まない
鍼灸師さんが使う鍼(はり)はとても細くて、上手に刺せばまったく痛みを感じません。細かく調べていくと皮膚には痛みを感じるところと感じないところがあって痛みを感じないところの方がずっと多いのです。直径0.1-0.2mmしかない鍼を皮膚に刺したとき、その刺激で痛みを感じる神経がほんのわずか(ゼロ~数個)なので痛みを感じにくいのです。 注射の場合は針がもっと太いこと、そして薬剤注入でたくさんの神経が同時に刺激を受けますから痛みを感じるのです。
痛みを感じる神経が高い密度で分布しているのは、①皮膚②筋膜③骨膜です。だからすり傷、肉ばなれ、骨折の痛みが強いのです。反対に神経の通っていない部位(とくに軟骨)は相当なダメージを受けても痛みは感じません。え?どうしてといえば、神経の通っていない部位は痛みを感じないからです。
2 レントゲン、MRIですべてがわかるわけではない
医師になりたての頃、レントゲンの読影に苦労して患者さんの診察がおろそかになりがちでした。たしかに画像診断でわかることがいっぱいあります。でもレントゲンやMRIでわからないこともあります。それを挙げてみます。
1. 痛み・・・どんな検査をしても痛みそのものを検出することはできていません。
2. かたさ・やわらかさ・・・画像診断で関節・筋肉のかたさ・やわらかさはわかりません
3. 熱・冷え・・・画像診断で温度変化はわかりません(特殊な検査法はあります)
4. むくみ・脱水・・・局所のむくみ・脱水も検出しづらいです
ところがこういった画像診断でわからないことを一気に、安全・安価に検出できる方法があります。それが人間の手(触診)なのです。
3 痛みの出方に着目する
わたしがとくに注意を払っているのは、上の4項目のうち「痛みの出方」と「かたさ・やわらかさ」です。この2項目を整理整頓して意味付けするのにずいぶん時間を使いましたが、最近はだいぶこなれてきました。
手で確認した情報を整理すると、(この人は骨の痛み)(こっちは筋肉の痛み)(これはじん帯性の痛み)と判断できるので、これをもとに本人の生活状況や仕事内容・趣味やスポーツの趣向などを発症の原因と考えることができないか検討していきます。
こうして仕事をしていると、最近では骨性の痛みが増えている印象があります。ちょうど新型コロナ感染症が爆発的に流行したあたり(2020年)から激増し、自分の診たてがまちがっているのでは?と自己疑念がわき上がりました。でも診たてに沿って治療すると確かに良くなるのでまちがいではないはずです。
もしかすると(以前かかっていたお医者さんと診たてがちがう)と感じている方がいるかもしれませんね。整形外科医としてのトレーニングはどこの大学を出ても基本的には同じですから、ちょっとした見方のちがいと思ってください。たとえば「関節軟骨がすり減っていることが痛みの原因だ」と考えるのか「軟骨がすり減ったぶん、そばの骨に無理がかかって痛くなる」と考えるのかのちがいです。でもそれで治療方針が変わることがあります。たとえば、ひざなどの関節痛に痛み止め内服や注射を行わず、ビタミンDやカルシウム剤を処方するケースも多いです。
4 レントゲンも、診察も同じくらいだいじ
レントゲンなどの画像診断と手による触診を組み合わせることが整形外科的診断にベストだと考えていますが、これには多くのお医者さんが賛成してくれると思います。ただし触診の習得が意外に難しいとも感じています。これをなんとか昔のわたしのような初学者に伝えるいい方法がないだろうか?これをテーマに近い将来本が書けるのでは⁈
そのためには、アタマの中身をもっと整理して、誰もが納得する説明をできるようにしたいですね。