(コロナウイルスが流行しているニューヨークからの報告ですが、症状が悪化する前の段階で血中酸素分圧がかなり低下しているのだそうです。この段階では息苦しさはあるものの比較的元気に見えるのですが、酸素分圧の急激な低下がその後の悪化の前兆なのかもしれません。実際にニューヨークの病院では、コロナの入院患者に対して肺機能の改善を促すために体位排痰法を行なっているとのことでした。)
コロナウィルスが世間を騒がしている今ですが、ふつうにかぜをひいたり、花粉症でせき・痰が出る人も多いと思います。電車内を中心に屋外でマスクをしている人も増えてきました。私は腰痛や外傷を扱う医者なので、せき・痰の診断治療に口をはさむことはしません。でも、ちょっとだけ役立つヒントをお話ししたいと思います。
呼吸理学療法とは
かぜの治療というとクスリ、あとは暖かくして休養を取るのが王道ですね。ただ、なかなかせきが取れずつらいとき、あるいはクスリの効果が今一つのときにこれをやってみると意外といいことがあります。それが呼吸理学療法で、入院患者さんを中心に一般の病院でも行われている方法です。薬が化学の力を利用しているのに対し、ここでは重力や振動など物理の力を利用しているので理学療法と呼ばれています。
人間の肺は左右二つに分かれていて、のどもとから下に伸びる気管につながっています。気管は空気の通るチューブで、どんどん枝分かれして最後は目に見えないくらい細かく分かれていくのですが、必ず気管につながっていて空気の出入りが行われています。
いわば無数に分かれていくトンネルなのですが、どこかでトンネルがふさがるとその先は空気が流れなくなります。空気が流れ込まないところでは肺が縮まったり水がたまって、そこに細菌が居着くと肺炎になるのです。
だからトンネルをふさぐ痰ををとることで、ただのかぜだと思ったのが肺炎になるという事態を防げるというわけです。ではどのようにやるのか見ていきましょう。
1 体位排痰法
まったく健康な人でも、気管を通してわずかな痰は出していますが、意識することはありません。これは自動的に痰を排出する仕組み(気管支・気管の繊毛組織)があるからですが、痰の量が多かったり、炎症で排出システムがやられていたりすると痰が排出されずたまっていきます。
たまった痰がトンネルのどこかををふさぐと呼吸が苦しくなり、せきをして痰を出そうします。寝ているときに痰の絡むせきが出やすいのは、じっとしていることで痰の排出システムが働きにくくなるからです。そこで排出システムがうまく働くように手助けをします。
肺から痰が流れやすいように頭を低い方向にもっていきます。ベッドの場合、足側のベッド脚の下に木材などをかませて持ち上げます。こうすると頭が下がり痰が切れやすくなりますが、さらに右肺の排痰を促すときはからだの右側を上に、左肺のときは左側を上にして痰が出やすくします。左右を10分づつ、仰向けでさらに10分くらい寝るだけでも効果が期待できますが、もっと長めにして向きを時々換えていってもいいでしょう。
お布団の場合、座布団を1,2枚おしりの下に敷いてそのまま寝ます。ベッドと同様からだの向きを換えて排痰を促します。わたしも痰が絡むときにやってみましたが、枕を使わずに頭を低くしたほうが効果が高いようです。この点はベッドでも同じと思います。
2 振動による排痰法
振動をからだに与えて排痰を促す方法です。体位排痰法と組み合わせるとさらに強力になります。入院中の患者さんの体位交換をするときに、せなかを手のひらでたたいて皮膚の血行を良くするのとやり方は同じですが、もう少しおだやかにゆっくりと行います。不快にならない程度に背中や胸をたたいて肺にこびりついた痰をはがしていきます。家族同士でするのに向いているでしょう。
自分だけで行うときは、肩こり用に使う電動マッサージ器を背中のあちこちにあてて痰をはがしていきます。あてながら声を出してみて、声が震えるようでしたら効果があるはずです。振動のスピードを調整してみましょう。
3 急速呼気法
せきとちがって声門を開けたまま急速に息を吐きだします。息を吐ききることで横隔膜をぎゅっと上まで持ち上げ、反動で下がるときに肺を広げすみずみまで新鮮な空気が行きわたるようにします。
横隔膜を大きく動かすことで、もっとも肺炎が生じやすい横隔膜近くの肺を広げ、無気肺・肺炎になるのを防ぐことができます。
ここに上げた方法だけで肺炎を完全に予防できるわけではありませんが、病院に行くほどではないもののせき・痰が長引いているときに、試してみてください。お役に立つかもしれません。