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運動感覚をとりもどす その10 エクササイズ

 これらのエクササイズをするときは、あせらずゆっくりと、余計な力を抜いて行いましょう。エクササイズの前に、まず仰向けに寝て、体中の力が抜けるか試してみましょう。ほんとうに力が抜けると、腕や足が重くて動かない感じがします。誰かに持ち上げてもらうと、放されたときにバタンと床に落ちます。力が抜けない人は、ここにあるエクササイズをする前に力が抜ける練習をする必要があります。

 

 息を詰めず、特別の指示がない限り呼吸しながら行います。10回を上限に繰り返しますが、質より量で、ポイントをしっかり意識しながら行いましょう。そしてその動きをゆっくりと味わいます(気持ちを集中させます。

 

 クレイグさんの指示はもっと細かいのですが、シンプルにまとめました。名前は私がつけています。詳しく知りたい人は著書をぜひ購入されることをお勧めします(muscular retraining for pain-free living)。

 

 

体幹コントロールの基本

 あお向け膝立ち姿勢で、背筋の力でせなか(おへそのあたり)を床から持ち上げ、腹筋で床に押し付けることができるのが基本条件です。まずこれができるように練習して、できたと感じたら以下のエクササイズをしましょう。

1 仰向けヘコヘコ(腰椎コントロール)

 

写真のように、腹筋(腹横筋)に力を入れて腰を丸める。尾骨と頭が持ち上がる。

 

次に腹筋を緩めて背筋で背中を反らす。尾骨が床に着く。

 

腹筋と背筋が交互に働くのを体感する。


2 おしり上げ(骨盤コントロール)

 

腹・背中を完全にリラックスさせて、骨盤だけを持ち上げる(骨盤が後傾する)。このとき背中は床についたままになっている(はず、浮いていたら背中に力が入っている)。

 

骨盤と腰椎は別々に動かすことができるのを体感する。腰と骨盤の間を固めて、塊のようにして動かしている人は珍しくない。けれどもそれでは筋肉痛や疲労感を生じやすい。


3 あし上げ

 

あおむけに寝て、息を吐きながら(腹横筋に力を入れながら)足を持ち上げる。次に息を吐くときに足をおろし、腹の力を抜く。

 

腹横筋が体幹をコントロールできるのを体感する。スポーツや作業で必要な時に、体幹を支えられるように。


4 股関節曲げ伸ばし

 

仰向け両膝立ての状態から右ひざを両手で抱え込む。背中に力を入れないように注意しながら左ひざを伸ばして、またもとの位置まで戻す。

 

ももうらの筋肉(ハムストリング)ではなく股関節を動かす筋肉(腸腰筋)を使うことを体感する。体幹コントロールと独立して腸腰筋を動かせるように。


5 壁すりスクアット(壁すりすり)

 

壁にもたれかかり、腹横筋を使って腹を引っ込める。このとき背中に力を入れず、反らさないように意識すること。この状態のまま膝を曲げて腰を落とし、またゆっくりと膝を伸ばしていく。

 

ほとんど腹横筋の力だけで背中をまっすぐに立てることができる。とくにみぞおち近くの腹筋が効けば胸郭を持ち上げてからだが猫背にならない。

 

※軍人姿勢のように胸を突き出して背中を反らすのはまちがい。おなかが風船だとするとその上に胸が乗っかる感じです。

 

 ここまでのエクササイズはおもに腹横筋を使って体幹をコントロールすることを目的にしているようです。ただし、ずっと力を入れ続けろということではありません。あまりにも腹横筋を使っていない(使い方を忘れた)人が多いので、まず腹横筋を使えるようにするのが目的です。現実の生活では必要に応じて腹の力を抜いたり入れたり微妙に加減します。

 

 そしてこの後のエクササイズは、すべて体幹のコントロールができることが前提となっています。上肢の症状であっても、下肢の症状であっても体幹の安定性があれば、無理なく無駄なく動かせることができる。結果的に筋肉や関節の故障が改善し、痛みが減少~消失する。これがクレイグさんのエクササイズの発想です。

 

 ボディワークの世界を眺めると、フェルデンクライス・メソッドと共通点が多い印象です。からだの動きを細かく分析して、運動に対する意識性を高めることを目的とする点で、ほぼ同じだと思います。

 

 このあたりがボディーワークのメカニズムを考える上での勘所です。トレーガー・ワークアレクサンダー・テクニックは発想の異なるメソッドのよう見えますが、根本のところで共通点が見つかる気がします。これについてはまたあらためて書くつもりです。

 

 

 

体幹の応用動作

6 足上げ屈伸

 

壁際に寝そべり、両足を壁にもたれかける。腰に力を入れず、膝が楽にまっすぐに伸びるようにおしりの位置を調整する。

 

(1)ここからゆっくりと膝を屈伸する。

 

(2)足を外向き・内向きに回す。

 

 ひざから下は力が抜けていても、おしりの筋肉で動きをコントロールできることを体感する。と同時に力が抜けるときは抜けて、殿筋で腰を固めることのないように意識する。


7 わき伸ばし

 

写真のように上下肢を伸ばして寝そべり、右手・右足をさらに伸ばして右の脇を伸ばす。左側と交互に行う。

 

側屈をするときは、伸びる側の筋がストレッチされるだけでなく、反対側がちぢむことでなめらかな動きができるのを体感する。

 

 


8 腰まわし・体まわし

 

膝立ちから両膝をどちらかにだらりと倒す。腹斜筋を使って反対側まで膝を倒す。これを繰り返す。

 

 

つぎに膝立ちのまま、腹斜筋を使って上半身を左右に回す。

 

いずれの動きもリラックスして腹斜筋のみで行う。

腹斜筋の使い方を体感する。


9 下肢はさみ持ち上げ

 

膝立ちで間にタオルをはさむ。腿の付け根から(腸腰筋で)下肢を持ち上げ、ゆっくりとおろす。

 

腸腰筋で下肢をコントロールすることを体感する。

下肢のコントロール

10 股関節まわし

 

両膝立ちから片膝を外側に倒す。そのまま膝を伸ばしていき、伸び切ったところでつま先を上に向ける(股関節の内旋)。またつま先を外向きに倒してから、再び膝を曲げていき元の状態まで戻る。

 

股関節の回旋動作をでん部の筋肉で行うことを意識し、それに応じて膝の向きが変化することを体感する。


11 大腿まわし

 

写真のように左足に右足をからめ、右足の力で下半身を横倒しにする。そこから左足の内また(腿の内面)の筋肉に力を入れてさらに左ひざを床に近づける。左右を替えて行う。

 

内またの筋肉(恥骨筋、短長内転筋)で股関節を内旋できることを体感する。


12 ドアノブ屈伸

 

写真のようにドアノブをつかみ、からだは垂直のままで、屈伸する。

 

背中の筋肉を使わずに、下肢の筋肉だけで屈伸ができることを体感する。

上半身のコントロール

13 股関節曲げ

 

壁から少し離れて立ち、両手を目の高さに立つ。左右の手を交互に下げていきながら、股関節から体を曲げる。腹筋・背筋を意識して、からだをまっすぐにしたまま下に倒していく。水平に近くなったら、しばらくその状態まを保つ。

 

股関節の動きに関わらず、体幹の姿勢コントロールができることを体感する。


14 壁立て伏せ

 

 腕の筋肉を使うことより、骨を使ったてこ運動を行うことを意識する。上肢の運動は、腕そのものより胸や肩口の大きな筋肉でよりしっかりとコントロールされていることを体感するのが目的。


15 ゴロゴロ腕伸ばし

 

 あおむけに寝て両腕をだらりと床に置く。上半身の力を抜き、床の上を引きづるように腕を上げ、脇が自然に伸びるのを感じる。そのままごろりと体を回すと、腕もぐらりと回ってついてくる。

 

 体幹の動きと上肢の動きはつながっている。上肢の作業は腕だけで行われるわけではなく、からだ全体を使って行われることを体感する。


16 横向き頭まわし

 

 横向きに寝て、胸や背中をリラックスさせる。くびの筋肉を使わずおでこに当てた手の力で頭を回す。

 

 くびを回す動きが頸部だけで行われるのでなく、腰から上の体幹の動きと連動して行われるのを体感する。

上肢のコントロール

17 背中ひきよせ

 

壁から少し離れて膝立ちし、両手を壁につく。体幹の力を抜いて股関節まわりもリラックスさせる。両側の肩甲骨を背中の中央へ、下(尾骨方向)へ引き寄せ、そのままに保つ。くびの力を抜き、頭を前に下げる。

 

背中の筋肉が肩を後ろに引き寄せたり、背中を反らす力があることを体感する。


18 両肩後ろ寄せ(1)

 

 イスに座り、両肘を水平まで持ち上げる。両側の肩甲骨を背中の中心に寄せることを意識して肘を後ろに引いていく。

両肩後ろ寄せ(2)

 

 両腕を横に伸ばし、手のひらを上に向ける。そのまま腕全体を後ろにもっていく。

 

 

 腕を動かすとき、肩甲骨も動く。肩甲骨の後ろの筋肉が働くのを体感する。


19 左右の背中ゆるめ

 

 イスに座り、両手を腹に当てる。力を抜き体を前に倒しながら左の背中を伸ばしていく。何回か繰り返した後、右でも行う。

 

 みぞおちをへこませると背中は広がっていく。背中が広がった側では肘が前に動くことを体感する。