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その9 運動感覚と手根管症候群

 

 なぜクレイグさんのアプローチに効果があるのか?なかなかわかりにくいと思います。そこで各論的に体の故障とエクササイズのつながりを探っていきます。まずは手根管症候群から、考えてきましょう。

 

 手根管症候群とは、手指の母指・示指・中指のしびれ(感覚鈍麻)と握力低下をおこす故障で、手首の付け根、手根管という骨と靭帯で囲まれたトンネル状の囲みの中で神経が圧迫されておきます。

 

 手根管の中には神経の他に血管や指を動かすための腱10本が通り窮屈なので、何らかの理由で腫れが生じると神経が圧迫されて症状が出ます。手をたくさん使うことでおきやすいとされています。

 

 だから一般的な治療として手の安静指導、装具による固定、消炎鎮痛剤の内服などが行われますが、なかなかすっきりせずに慢性化することはまれではありません。

 

 慢性化する理由の一つは、手の使い過ぎを改善することが難しい点です。生活にせよ仕事にせよ、患者さんにしてみれば必要だからやっているわけで、負担を減らしにくいのは想像に難くありません。


 しかし使い方に無理があり、それが発症のきっかけになったとしたらどうでしょうか。そしてそれを改善できるとしたら?このあたりがクレイグさんのアプローチが期待できる理由です。

 

 ここでは著書より抜粋して、手根管症候群に効果があると思われるエクササイズを紹介します。一見すると手や手首にまったく関係がないように思えますが、クレイグさんは実際にこういう方法でクライアントさんに指導しています。

 

 手を上手に無理なく使うためには、肩から体幹が腕をしっかりと支えることが必要です。手で重いものを支えるとき体全体で腕を支えることができれば、腕にある細くて小さな筋肉にかかる負担が少なくなります。

 

 一般的な治療で症状が改善しないとき、こういう一見遠回りのように見える方法が奏功することがあります。

 

 やり方は少し違うのですが、授乳中のお母さんが手首の腱鞘炎になって困っているとき、肩から体幹にかけての動作指導(力の入れ方)をすると、(ほかの治療をまったく行わずに)頑固な痛みが短期間で改善するのをよく経験します。

 

 クレイグさんのやり方では、動作指導のさらに一段階前で運動感覚を磨くことから始めるわけです。時間と手間がかかりますが、一度わかり始めればより永続的な効果が見込まれるのかもしれません。


 ただし、この方法は治療家・クライアント双方にやる気と根気が必要です。患者さんすべてがこのやり方についていけるかは?です。クレイグさんのオフィス(治療院)に来るクライアントさんはいろいろな治療を試しても効果がなく、切羽詰まってやってきた方ばかりなので、結果的に選抜されて根性が座っている人が多いのだと思います。

 

 

 エクササイズについてのクレイグさんの説明はとてもていねいなのですが、少しわかりにくいのでシンプルにしてみました。写真の動きをまねてみてください。エクササイズの名前は、イメージがつきやすいように私がつけました(エクササイズ全体の説明はこちら)。

 

 注意点を一つ。腕をを支えるために体幹から肩を使うときに、ガチガチに固めるのは間違いです。動的にコントロールしないと肩や腕を痛めかねません。エクササイズでも肩甲骨のコントロールが重視されています。

壁で腕立て伏せ

 

 腕の筋肉を使うことより、骨を使ったてこ運動を行うことを意識する。上肢の運動は、腕そのものより胸や肩口の大きな筋肉でよりしっかりとコントロールされていることを体感するのが目的。

ゴロゴロ腕伸ばし

 

 あおむけに寝て両腕をだらりと床に置く。上半身の力を抜き、床の上を引きづるように腕を上げ、脇が自然に伸びるのを感じる。そのままごろりと体を回すと、腕もぐらりと回ってついてくる。

 

 体幹の動きと上肢の動きはつながっている。上肢の作業は腕だけで行われるわけではなく、からだ全体を使って行われることを体感する。

横向き頭まわし

 

 横向きに寝て、胸や背中をリラックスさせる。くびの筋肉を使わずおでこに当てた手の力で頭を回す。

 

 くびを回す動きが頸部だけで行われるのでなく、腰から上の体幹の動きと連動して行われるのを体感する。

両肩後ろ寄せ(1)

 

 イスに座り、両肘を水平まで持ち上げる。両側の肩甲骨を背中の中心に寄せることを意識して肘を後ろに引いていく。

両肩後ろ寄せ(2)

 

 両腕を横に伸ばし、手のひらを上に向ける。そのまま腕全体を後ろにもっていく。

 

 

 腕を動かすとき、肩甲骨も動く。肩甲骨の後ろの筋肉が働くのを体感する。

左右の背中ゆるめ

 

 イスに座り、両手を腹に当てる。力を抜き体を前に倒しながら左の背中を伸ばしていく。何回か繰り返した後、右でも行う。

 

 みぞおちをへこませると背中は広がっていく。背中が広がった側では肘が前に動くことを体感する。