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運動感覚をとりもどす3  サラ


 サラは12歳の女の子です。出会ったときは左の股関節が痛くて立つこともできませんでした。


 普段はとても活発で、年中スポーツをしています。スポーツドクターの診たては骨端症でしたが、かかりつけ医の指示でクレイグさんのところにやってきました。


 体が柔らかくて、関節の動きは全く問題ありませんが、一つ気になることがありました。立っている時、必ずどちらかの脚に体重をかけるのです。両脚に均等に体重をかけるよう指示すると短時間ならできるのですが、すぐに片脚だけに体重をかけようとします。両脚に体重を乗せてそのままでいるよう指示しても、バランスが崩れそうになって腕を跳ねあげて倒れないようにするのです。


 次に歩く様子を観察すると、とても小刻みに歩いてバランスをとっているように見えました。しかし運動能力に優れた子ですから、両親を含めまわりの誰もが問題があると考えていなかったのです。

 実はこの少女は動きに大きな問題がみつかりました。活発に動けていても、腰やおなかや股関節の筋肉を上手に使えていなかったのです。


 そこでいくつかの運動練習を指導して家でやってもらうことにしました。3回目のセッション時には両脚均等に体重をかけて立てるようになり、歩くときに歩幅が大きくなっていました。もちろん痛みはほとんどなくなっていました。

 股関節が痛くなった理由は、不自然な立ち方が習慣となったため筋肉に負担が強くなったためでした。

 しかしながら、なぜ彼女はこんなに癖のある立ち方をするようになったのでしょうか?


 はじめてサラのお母さんに会った時、この疑問が解けました。お母さんは多発性硬化症という病気のために足腰が不自由で、両手で杖をついて歩いている方でした。幼いサラは、知らず知らずのうちにお母さんの立ち方・歩き方を見習っていたのです。

 

 

 痛みの相談を扱うとき、しばしば謎のような症状に出会います。診断のとき一番だいじなことは、危険な病気やけがを見逃さないことですが、それができてもあいかわらず症状は謎のまま、いい解決策が見つからないことがあります。


 サラちゃんのお話はまさにその例で、運動パターンの欠点を見逃さず、みごとに運動処方を行ったクレイグさんの技量には脱帽です。クセの根源を突き止めたエピソードを含め、推理小説さながらの展開だと思います。


 ちなみにクレイグさんは医師ではなく作業療法士さんです。まさに「餅は餅屋へ」を地で言ったお話です。