kinetic awareness(直訳すると「運動感覚の意識」)とは、からだが本来内蔵している動作・姿勢・位置などの感覚のことです。どういうことかというと、私たちは目をつぶっていてもからだをどう動かしているか、どのように立っているのか感じることができます。見ないでも右手の人差し指を曲げ伸ばしすることができますし、足首を回したりできます。目をつぶったまま寝返りもできるし、起き上がって立つこともできます。こういったことができるのは、体中すみずみまで配線された神経のネットワークがあるからです。
ところがこれがさび付いてしまうことがあります。だれでも若いころは体をよく動かしていますが、社会人になって座ったり立ったりの単調な毎日で、電車や車を多用するようになると、神経のネットワークの中でも使わないところがたくさん出てきます。とりあえずの動きはできるけれど、細かい動きができない。微妙なコントロールができなくなっていても、毎日使っている部分は保たれているので、本人はなかなか気がつきません。
あるとき久しぶりに運動をしようとするとうまくいきません。昔取った杵柄とばかり、スポーツをやろうとするとあれ?!なんだかうまくいかないなと感じます。こういうとき、運動不足による筋力や柔軟性の低下ばかりに目が行きがちですが、神経ネットワーク自体もだいぶ怪しくなっている可能性が高いです。
すると転んだりのケガをしやすくなり、スポーツで故障しがちとなります。筋肉の状態を感じる力が鈍くなり、肩こりや腰痛になりやすくなります。
また、関節や背骨の複雑な仕組みをなめらかに動かすことが下手なので、けがからの回復も長引いたりします。
というように、地味にいろいろ影響するわけですが、この文章を読んでいる方々もなかなか具体的なイメージがわかないテーマだと思います。そこでクレーグ・ウィリアムソンさんの「痛みのない生活のための筋再教育」の中身を紹介していきたいと思います。文章が平明でわかりやすい本ですが、扱うテーマがやや難解なので、私なりにわかりやすく書き直しながら、少しのぞいてみましょう。