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その(6)痛みの世界

 誤診の問題をトラベル・シモンズ両博士は一番気にかけていた。トリガーポイントから生じる関連痛はよくあるたくさんの病気の症状とよく似ている。しかし医師は想定できるあらゆる可能性をあたって診断するのが基本であるにもかかわらず、筋性の症状を考慮しないことがほとんどだ。トリガーポイント自体が正規の医学教育の中に含まれていない。お二人は日常よくある痛みの問題のほとんどがトリガーポイント由来であることを確信していて、それが誤診につながることを非常に心配していたようだ。

 

 そもそも研究を始めた当初から、トリガーポイントという考えそのものが無視されがちで、一歩間違えば捨て去られ忘れられるのではないかという危惧の念を抱いていた。ほんとうならこれは医学の世界を席巻し、ヘルスケアを根本から変えることのできる概念のはずだ。1983年に初版が出ているのに、関連する本が図書館にない。家庭医学書にも載っていない。医者は相変わらず痛み止めばかり出している。本屋できちんとした内容の本を売っていない。トリガーポイントは一種のでたらめで、半分が想像の産物だと否定的な人も多い。

 

 唯一マッサージ師だけがトリガーポイントを知っていて、(私の経験上)ほんの一握りのマッサージ師のみがきちんと利用できているにすぎない。さらに言うならマッサージの世界で使用されているさまざまな治療器具には根拠の怪しいものもたくさんあって、それが効いたにせよプラセボ効果でないかと言われる状況の中では、医師や一般の人たちがマッサージそのものを軽く考えてしまうのも無理はないと言えるだろう。

 

 まさに私がしたいと思っていることを、本当に待ち望んでいる人たち、すなわち痛みに困っている人たちの世界があると感じた。だからそういう人たちに、ダイレクトに届けられる情報を作ろう。ピアノ調律の仕事をやめたっていい。今の自分にはもっと大事な仕事がある。

 

 まずは困っているピアノ調律師のため、組合紙に自己治療法を扱う連載を始めた。公にあらわすにはこの辺から始めるのが適当と踏んだわけだ。

 

 またマッサージのセミナーやワークショップも開いた。マッサージの公的資格を取ることを考えた。というのは娘のアンバーが背中の痛みで苦しんでいたので治すためにマッサージをやってみた。しかしうまくいかなかった。プロのマッサージ師の技量はなかったのだ。だからきちんとマッサージを学べば娘を助けられるし、自分の仕事にも役立つだろうと思ったのだ。

 

 一番大きくて活発なマッサージスクールを見つけて応募した。この時点ではマッサージ師になろうとは思っていなかったが、技術を磨きたかった。義理の息子にピアノ修理の仕事を任せ、ユタ・マッサージカレッジの6か月集中コースに入学することになった。(続く)7へ