はじめに
このパンフレットの中身は、おもにTim NoakesさんのWaterlogged(水びたし)という本の内容を中心に紹介したものです。一般的な熱中症の説明とちがうところがあるものの、きわめて合理的かつ明快であり、症状に対して何をすればいいかすぐにわかります。ハイカー、ランナーなど長時間連続してからだを動かす人たちにはとても実用的だと思います。
◎
熱中症の説明ってわかりにくいです。じつは考え方に混乱があり、いろいろなからだの異常状態がまじり合っているようです。プロが読んでも?と思うことがあります。
最近の研究結果をもとに、わかりやすいように整理してみました。現実的なアドバイスも入れたので参考にしてください。
A 熱中症
原因 体温が上昇しすぎる。
サイン からだが熱い、顔が赤い、ぼーとする
対策
日かげで休憩、ぬれたタオルをあて、うちわなどで冷やす。氷水もいい。
Tips
じつは熱中症はかなり少ないらしい。マラソンランナーは、ゴール時点39度の体温で元気です。熱中症より、脱水・低血糖がほんとうは多い。だから足を上げて寝かし、なにか甘いものを飲み、食べさせると良い。
B 筋けいれん
原因 筋疲労+神経疲労(?)
サイン ふくらはぎやあちこちがつる(おもに下半身)
対策
ゲキ的に効く方法
①漢方の芍薬甘草湯(市販されている)
②安全ピンでつったところをチクチク刺激する
(マラソンランナーの知恵)さすのではない、チクチク
③ストレッチ(痛いが効く。しかし再発しやすい)
④がまん(栄養補給後、歩くとたいていなんとかなる 泣くひまがあったら歩く!!!)
Tips
なる人はなるが、ならない人はならない。素質があるらしい。
ふだんから鍛えておくとなりにくい→努力と根性!!!
※けいれんと塩分不足は関係がないらしい。塩分をとるより甘いものが効く(経験的)
C 脱水
原因 水分が足りない
サイン
口が乾く、つばがでにくい、声がかすれる。
のどがかわく。水がほしいと強く感じる。
ひどくなるとふらふらする、立ちくらみがおきる(起立性低血圧)
意識障害をおこさない(水中毒とのちがい)
対策
のどがかわいたら水を飲む。ふつうはただの水でオーケー!
とりすぎはキケン!!!、水中毒はこわい。ほしくないのに無理に飲まない。
Tips
スポドリの塩分は案外少ない。効くのは糖分らしい。糖分が入ってると吸収も速い。だから甘いやつ(ジュース、カルピス、コーヒー牛乳)はいい。おすすめです。
よほど脱水が強くならないと、汗は止らない。汗の量が脱水のめやすにはなりません。反対にいえば、かなり脱水がすすんでも人間は意外と元気でいられます。マラソンの優勝選手では体重の3パーセント(60キロの人で2キロ)減少でゴールしても元気です。ウルトラマラソンでは6パーセントの減少でも元気な人がいます。少々脱水気味でも元気なら心配する必要なし。のどがかわいたら飲めばよし。
脱水を心配して水分を取り過ぎることのほうがキケン。水中毒が一番こわい。
山登りの一般的水分必要量(ml)=体重(kg)×予想運動時間×5
例 60キロの人が5時間山歩き 60×5×5=1500ml
つまり1.5リッターが必要(個人差あり)
※塩はとるべきか
からだの塩分貯蔵量は余裕があり、あわてて塩をおぎなう必要はない。3・4時間の運動なら塩は不要。お弁当やスナックの塩分でじゅうぶん。長時間の運動(10時間以上の運動、ウルトラマラソンなど)の場合、しょっぱいものがほしくなったら、塩分をおぎなってください。
※Salty sweater(しょっぱい汗かき)
汗っかきでシャツが塩をふくタイプ。塩分が減るのでは心配になるが、意外と平気なもの。あらかじめ汗をかきやすい季節になったら運動をくりかえし行い、からだを慣らすと汗の塩分濃度が下がってきます(暑熱馴化)。塩分を多めにとる必要はない。塩分を取り過ぎるほうがむしろ心配(高血圧など)。
D 低血糖
原因 血糖値が下がる。別名ハンガーノック、シャリバテ。
サイン
疲労感が強い、だるい。反応が鈍い、集中力がなくなる(道をまちがえる)。転んだり、足をひっかけやすい。ひどいと動けなくなる。しかし病気のケースを除けば意識障害まではいかない。
対策
栄養補給。食べるとよみがえる。スナックなど細かく補給すると防げます。食べものは帰りに余るぐらいに持っていくこと。絶対手をつけない非常食も必要。
Tips
疲れすぎて食欲が出ないとき、あたたかいものを飲むと楽になる。甘いものばかりだといやになるので、おにぎりなども良い。魚肉ソーセージなどもうまい。
ためしに朝ごはん抜きでフルマラソンに出てみたことがあります。ハーフのあたりで視野が狭くなり、ただ足を前に出すだけの状態になりましたが、意識は最後までありました。終わった後、フルーツにむしゃぶりついてやっと落ち着きました。
E 水中毒(別格の危険性)
原因 必要以上に水分を補給した結果、低ナトリウム血症になる。詳細ははぶくも、命取りになることがある。
サイン
頭痛、おう吐、意識障害(まわりからみて様子がおかしいときは要注意)
手足・顔がむくむ(※)
全身のけいれん(重症のとき)
とくに頭痛・意識障害はほかにない症状、でたら注意!
※ マラソン・ウルトラマラソンでは指がむくむことがありますが、腕振りの遠心力でむくむようです。水中毒とは関係ありません。顔のむくみは要注意!
対策
のどがかわいたら水を飲む。かわかないのに飲まないこと。
水中毒を疑った場合、それ以上の水分摂取をさける。安静にして様子を見る。てんかんのような全身けいれん、意識消失があったら緊急事態。すぐ!!に救急車を呼ぶ。
Tips
コマーシャルで、「かわく前に飲む」と宣伝していても信用しないこと。ゲー○レードの宣伝から始まったらしい。スポドリは、ただの水に比べると腸からの吸収が速い。速いから水中毒の危険が高まっている可能性あり。脱水の補給にいいが、飲みすぎは×××。
※水中毒はビールの飲みすぎでもおきることがある。飲みすぎに注意!
治療は、3~5%の食塩水(生理食塩水より濃い)の点滴。生理食塩水よりうすめの点滴をすると命取りになることがある。
スポーツの前と後で体重を計り、あとで体重が増えていたら飲みすぎです。