モビリゼーションとは、関節を構成する骨の動きに注目して、正常な関節の動きに近づけるように外力をかけて骨運動を行なわせる方法をさす。
ストレッチとは、軟部組織(おもに筋)に注目して、外力により伸張していく方法をさす。
一見、ちがった治療手技のように思えるが、ここでよく考えてみよう。
モビリゼーションで実際に働きかけているのは、ほんとうは骨ではない。関節周囲を包みこんでいる軟部組織に働きかけているのだ。軟部組織に働きかける手段として、固くて手がかかりやすく、動きの確認もしやすい骨を、治療の手がかり、めやすとして使っているにすぎない。
すなわち、モビリゼーションとストレッチは、本質的には同じことを目標にしている。手技療法におけるそのほかの治療法のすべても、軟部組織に働きかける治療法という点で同一である。
「関節がずれている」「背骨が曲がっている」といったいいかたは、ほんとうにそのとおりだとしていてもあまりにおおざっぱといってよい。ずれたり曲がったりする理由をつきつめて考えれば、関節や脊椎周囲の軟部組織に短縮・伸張があることになり、そのおきた理由が代償性か、非代償性か、急性か慢性か、炎症性か非炎症性かを考えて、治療計画を立てる必要がある。
すなわち、ずれているから、曲がっているから治すという説明は、それだけではまったく意味をなさない。曲がっていることに理由がある場合は、その理由を突き止めて正さないといけないし、器質的な変形であった場合には変形そのものを受け入れた上で、機能障害を改善しなければならない。
また、すべての手技療法は、本質的に軟部組織の可動性を改善することを目的としているから、ひとつの方法でうまくいかないときは、ほかの方法に変えてみることもできる。ちょうど、大工さんがいろいろな道具を使いこなして家を建てていくのと同様である。
いい家を建てるためには、土地を眺め、建て主の要望を聞き取り、しっかりと煮詰められたプランに基づいて図面を引く。そして資材を準備し、実際の作業に移っていく。
同じように、手技療法では患者さんの話をよく聞き取り、触診で評価し、治療プランを立てる。そして治療を行うことになる。
木材を切ったり削る道具にこだわるのは悪いことではないが、それだけで家を建てることはできない。同じく治療手技にこだわるのも悪いことではないが、評価をきちんとすることなしには良い治療にならないのだ。
(クリニックの研修ハンドブックより抜粋したものです。)