ブーマーウォーク 9.

テクニックのみがき方

 競歩の技を磨こうと思ったとき、3つの点を考慮した。より良いテクニック、より距離を踏むこと、より速く歩くことだ。優先事項はテクニックだ。骨盤の動きと下肢の踵接地までの動きに習熟するには時間が必要だ。接地のときにひざがまっすぐで、足首を曲げてつま先が上を向くようにして、足がロッキング運動をしたらつま先が地面を離れるときに押し出すのだ。

 

 最初のうち、良いテクニックを保ったままで長くは歩けないはずだ。すねの筋肉がまだ弱いから、足がからだの真下に来るまで足首を曲げてつま先を上向きに保つ動作を続けることができない。それどころかこの状態で接地することさえむずかしくて、かかとが着いた瞬間に足裏が地面をたたく音が聞こえることもある。2,3分はがんばれるもののすぐに疲れてしまい、乳酸の蓄積による灼熱感を経験するかもしれない。

 

 この筋肉が強くなるのはけっこう早い。競歩の練習をすれば強くなるが、筋力強化のエクササイズも有効だ。

 

 私はときどきすわるか立ったままで、足首を曲げつま先を上にあげて30秒間動かさないエクササイズをやる。試してみるといい。立ってやるときは何かにつかまったほうがいい。15~20秒もすると灼熱感が感じられるかもしれない。2,3回をワンセットとして一日2,3回行えば効果が感じられるはずだ。

 

 即興の筋トレをすることもできる。テレビを見ながらコーヒーテーブルの脚の下に指先をあてて、足首を曲げてテーブルを持ち上げることができる。2,3秒たったらゆっくりとおろし、足が疲れるまでこれをやるのだ。

 

 もう一つ私がやっているのはかかと歩きで25~30歩そのまま歩き続ける方法だ。ほかにイスに座ったまま足をまっすぐにのばし、空中に数字やアルファベットを書く方法もある。

 

 はじめのほうで述べたように、かかとの低いシューズを使うことを忘れないこと。かかとの厚いものよりよっぽど扱いやすい。わたしにははっきりした差があった。

 

練習

 

競歩も基本的にはほかの身体活動と変わらない。ピアノであれ競歩であれ、うまくなりたかったらある程度の時間が必要だ。常識的に考えよう。まったくの素人がピアノの前に座って2、3時間練習しても、体にはほとんど負担がかからない。しかし初めて競歩の練習を2、3時間やったとしたら、翌日は全身が筋肉痛だろう。だからあまり気張らずに少しづつ距離を伸ばし、スピードを上げていこう。これからの人生を健康的に暮らす技術を学ぶのだから、たっぷり時間をかけて技を磨いていけばいい。

 

 私が毎日の練習内容を変えているのには4つ理由がある。ひとつめは練習を毎日変えることでいつも新鮮な気持ちで取り組めることだ。ふたつめは、距離や時間を変えることで体にかかる負担も毎日変えられるからだ。三つめはレースに備えるために練習内容を変えているからだ。もし1500メートル競歩の準備だとしたら、より短くて速い練習を組み入れる。10キロに備えるにはより長くペースを落とした練習を増やす。しかしいろいろな練習をすることは変わらない。

 

 四つめはさまざまな練習をすることにメリットがあるからだ。スピード練習をすると、長いレースのときにケイデンスが上がる。デイブ・マクガバンのクリニックで教わったのは、ゆっくり長く歩く練習で筋肉内の毛細血管が発達し、速く短いレースのときに筋肉内に酸素がいきわたりやすくなるという話だ。

 

 競歩をする上で目標にしていることのひとつに、「年ごとに若く」のなかで提唱されている最大心拍数の  60〜65%の運動を週6日45分づつ行うというのがある。このためには自分の心拍数を知る必要がある。

 

 サルベージ、マクガバンともに用いているのが、最大心拍数を知るために220から自分の年齢を引く方法である。わたしは現在58歳だから、最大心拍数は毎分162回になる。すなわち最大心拍数の       60〜65%のトレーニングゾーンは毎分97〜105になるわけだ。

 

 サルベージはカルボーネン法も使用していて、この場合は安静時心拍数を使うことで個人の体力を考慮している。このやり方では220から年齢を引きさらに安静時心拍数を引く。出てきた数字に目標とするトレーニングゾーンのパーセンテージをかけて、そこに安静時心拍数を足し算する。あなたが60歳で安静時心拍数が55で、最大心拍数の65%でトレーニングをしたいと考えたとする。この場合の計算は次のようになる。

(220−60−55)×0.65+55=123.25(最大心拍数の65%)

 

 この計算法を利用するためには自分の安静時心拍数を知る必要がある。朝まだベッドで寝ているときに心拍数を計ってみよう。これが安静時心拍数だ。

 

 マクガバンは2分の休憩をはさんで行う3回のきついインターバルの結果から最大心拍数を計算していた。わたしの場合は毎分180回であった。

 

 わたしの場合、いささか時代遅れの220マイナス年齢の計算式を使うと、最大心拍数の65%ターゲットゾーンは毎分105回になる。これがマクガバンのやり方では毎分117回で、サルベージでは122回になる。二人の方法の結果はほぼ同じで、わたしの特性を考慮したものと言えるだろう。

 

 こういう専門家の計算ではあるが、実際には65%を超えて毎分125〜150で練習していた。わたしが狙うレースには1500メートル競歩があり、これは10分以内で歩ける。スピード練習をするときは30分ぐらいで終わるようにしている。競技をやっているので、健康に良い心拍数を超えたレベルで練習しているのだ。ほんとうはもっとゆっくりしたペースがからだにはいいのはわかっている。実際、「年ごとに若く」を読むと、もっとゆっくり長く歩いたほうがクロウリーとロッジが提唱する最大限の健康促進効果に合致するのがわかる。だがわたしの目標は二つ、健康と競争なのだ。したがってトレーニングプランはこの二つの妥協点を探ることになり、結果はいずれも中途にならざるを得ないわけだ。

 

 将来はもっと長い距離に挑みたいと思っているので、その場合練習時間も長くなるだろう。おそらく専門家の指導も必要だと思う。あなたも、練習するにあたってはいろいろアドバイスを受けた方がいいと思う。こういった練習の詳細については、サルベージとマクガバンのウェブサイトを参考にしてほしい。サルベージの著書はRacewalk Like a Championであり、ウェブサイトはhttp://www.racewalk.comである。マクガバンの著書はThe Complete Guide to Racewalking Technique and Trainingで、ウェブサイトはwww.racewalking.org.ある。どちらもどうやって距離とスピードを増やすかを解説し、スケジュールの詳細を教えてくれる。マクガバンの別の著書The Complete Guide to Marathon Walkingについて詳しくは知らないが、参考になるかもしれない。(続く)