ブーマーウォーク 3.

なぜ競歩なのか? (続)

 

 ローインパクト

 

 たぶんあなたも膝や他の関節を痛めて走れなくなった人を知っているだろう。ランナーやジョガーは一歩一歩、1キロ1キロ、1年1年ごとに体に負荷を与えているわけだ。彼らが走る様子を見ればあたまが上下にゆれ続けているのがわかる。とすればその下の体にだって衝撃がかかり続けていることになる。

 

 競歩の場合前に行く足を可能な限り低く運び、接地の衝撃は小さい。着地の瞬間ひざはまっすぐなので、靭帯・腱・筋肉にかかる負担は少ない。衝撃が少なく負担が小さいからケガも少ない。北米競歩協会のウェブサイトによると、接地の際に踵にかかる衝撃は競歩で体重の1.5倍、ランニングでは3.5倍になるそうだ。

 

「どんなことであれ、関節にかかる力が増えれば軟骨にかかる力も増えるので変形性関節症になるリスクが高くなります。」と整形外科医でスポーツ医学の専門家ダイアン・ヒラードセンベル博士は説明する。「ジョギングのとき膝にかかる負荷は体重の8倍、速いランニングでは14倍以上になることがわかっています。競歩の場合、膝が伸びた状態であり垂直方向にかかる力が少ないため、膝にかかる負荷はより少ないと考えられています。」

 

 研究からも競歩が相対的にケガの少ない競技であることがわかっている。運動トレーニング雑誌(Journal of Athletic Training)の中で400人の競歩選手の調査結果が発表されている。年齢12〜88歳、競技歴は3ヶ月〜62年、約75%が男性であった。三分の一強が他のスポーツによるケガのために競歩を始めていた。

 

 平均すると競歩選手は6.4年に1回ケガをしていた。この中には競技そのものに影響を与えない程度の軽いケガも含まれる。ケガの約半分、すなわち練習内容に影響を与えるほどのケガは13年に一回の割合であった。持続的な痛みを伴い、あらゆる運動を休止して日常生活にも影響を与えるほどの深刻なケガは51.7年に1回の割合で生じていた。

 

 あなたがランナーもしくは他のスポーツの競技者だったら、これがかなり低い数字であることがわかるはずだ。このことはwww.pubmed.govに収載されたある調査報告からも裏付けられている。4358名の男性ランナーに対する調査では、1年で45.8%が何らかのケガを経験し、別の研究では1680名の男女ランナーのうち48%が一年間にけがをしていた。ということから見て、各2年ごとに比較した場合、ランニング・ジョギングは競歩に比べ3倍ケガをする可能性が高いということになる。400名の競歩選手を基にしたケガの発生率よりはっきりと多いといえるわけだ。

 

 競歩に関する他の研究報告もまた興味深い。ケガの発生率に男女差はない。30歳以下の競歩選手、週に6・7回練習する選手(週3回以下に比較して)のケガ発生率は高い。週に50マイル(80キロ)以上歩く選手では高く、週15マイル(24キロ)以下の選手では低い。

 

 一流競歩選手のエネルギー効率を調べた研究が散見されるが、わたしとしてはケガの発生率や体の各部分にかかる負荷の程度など一般の選手にも有用な研究が増えることを望みたい。ヒラードセンベル博士の研究グループは、圧力感知プレートを使った研究を始めている。多くの研究者が同様の研究を行って、ランニング・ジョギングと競歩のちがいがよりはっきりとすることを期待したい。

 

競技を楽しむ

 

 競歩は競技としての長い歴史を持ち、1908年からオリンピック競技になっている。現在の競技内容は相当に過酷である。女性は20キロ、男性は20キロと50キロを歩く。50キロの場合、マラソンよりも8キロ近く長いにもかかわらず、世界記録は3時間34分ちょっとである。これはまったく走らずに1マイルを6分55秒(キロ4分17秒)のペースで歩き続けることを意味する。

 

 一流選手が挑む50キロレースはわれわれ(わたし、そしてあなた)にはおそらく無縁の世界である。わたしがやりたいのは、楽しくてときどきメダルやリボンがもらえるレースだ。そういう世界が実際にあり、後ほど詳しく述べるつもりである。

 

 デイブ・クーツは、初めてのレースでいっきにわたしを引き離した男であるが、元ランナーの競歩選手についておもしろい観察をしている。傑出したランナーが平凡な競歩選手になることがあれば、平凡なランナーが傑出した競歩選手になることもあると。もしも今のあなたが平凡なランナーだとしても、競歩こそまさにあなたのスポーツなのかもしれないのだ。

 

この本の目的

 

 本書の目的はオリンピックメダリストを育て上げることではない。あなたとそのほか数万人のベビーブーマーが競歩を始めてその効能を享受できるようにしたいのだ。7500万人のベビーブーマーのうち千人に一人が競歩を始めたとしたら、新しく75000人の競歩選手が生まれることになる。では100人にひとり、10人にひとりだったらどうなる?

 

 各地の競歩クラブが入会者であふれかえり、あたらしいクラブが林立するだろう。あちこちの公園や歩道で選手が歩き回り、競歩選手が通り過ぎてもジョガーと同じくらいの注目しか浴びないはずだ。競歩専用のシューズの需要が高まってメーカーも本気で取り組むようになるだろう。レースがよりたくさん開催されて参加しやすくなり、競技者の数が増えるからわたしがレースで勝つ確率はずっと低くなるだろう。そして、みんなが長生きできて、スリムになって健康な毎日を送れるようになって欲しいのだ。

 

 公務員としてのわたしはけっして大物というわけではなく、日々の仕事をこつこつとやるタイプだった。しかし、ベビーブーマーのひとりで競歩選手としてのわたしには大きな夢がある。60年代に突然ジョギングが一大ブームとなったような瞬間が近いうちに到来するのではないかと思っているのだ。現在のマラソンブームでたくさんのランナーが参加しているのと同じことが、競歩の世界にも訪れるのではないだろうか。レースの前方では熾烈なトップ争いが繰り広げられる一方、われわれはレースそのものを楽しみ、この素晴らしいスポーツの効能を享受するのだ。

 

 競歩は始めたその日から楽しむことができるスポーツだ。だが、一生をかけてチャレンジできるスポーツでもあるのだ。(続く)