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出会い

(2003年度全日本病院理学療法協会 第1回理学療法東京学会での講演をもとに雑誌「理療」に掲載された内容が基本になっています。)

 

 私は医師です。手技療法の世界ではお医者さんが実際に手技を行うというのは、めずらしいようで、知り合いの医師にも手技療法を取り人れている者はいません。しかし、私は手技療法、すなわちマニュアルメディシンを学んで、毎日の診療に取り入れていることを本当に良かったと思っています。はじめに、マニュアルメディシンを行なうようになったきっかけを書きましょう。

 

 私達は大学を卒業するときに、自分の専門を 決めます。 整形外科医になろうと決めたのは、他の科に比べて病気や怪我のメカニズムがすっきりとしていて、治療もわかりやすいのではないかと思ったからです。ところが働いて数年たって見ると、これはとんだ勘違いだということがわかりました。

 

 外来にはたくさんの患者さんが訪れ、ここが痛い、ここが調子悪いという話をします。国家試験に合格し、整形外科の医局に入局したのだから、 外来の患者さんの診察はお手のものかといえば、 全くそうではありません。腰が痛いという患者さんが来たら、筋力や知覚の検査、腱反射を調べる ことはできますが、腰痛の本当の原因がわかるわけではありません。レントゲン写真を撮ってみても、なにがしかの異常所見は見つかりもするので すが、それが腰痛のほんとうの理由かどうかは別問題です。

 

 大学病院は勉強になるところですから、ほかでは経験できないようなめずらしい病気や新しい手術法を教わることができます。難しい病気の診断法も覚えます。数年経つと、それなりに自信もついて、一人前の整形外科医になった気がしましたが、外来ではもっとも数が多くありふれている相談ごと、つまり腰痛や肩こりについては、いまひとつ釈然としないまま診療を続けていました。とくに、私か専門としていた脊椎の領域ては、からだの痛みや手足のしびれといった訴えで多くの患者さんが来院します。しかし、通常の診察手順では原因のはっきりしないケースも決して少なくありませんでした。

 

 また、大学病院といえども、治療方法のレパートリーは少ないものです。鎮痛剤などの薬物、低周波や牽引器などの理学療法、そしてこれらが効果ないときは手術を勧めます。手術治療ぱ、最後の手段ですし、手術によって明らかに良くなるという見通しが立たないかぎり、そして患者さんに納得していただかないかぎり、行うことはできません。薬もリハビリも効な く、手術もできない、そして原因がはっきりしないとなればどうすればいいのでしょうか?実際の診察でも、治らないけれどなんとなく通っている、なんとなく薬を出しているといった患者さんもまれではありませんでした。

 

 大学病院での診察のなかで、こういった割り切れない思いがふくらんできたところにマニュアルメディシンにであったのです。

 

 小さなきっかけがいろいろありました。脊椎外科学会に出たときに、「マニュアルメディシン」という講座があったこと、アルバイト先の病院に、アメリカのカイロの資格を持っている人が勤めていてその話を聞いたこと、 AKA という変わった治療法があるらしいことなどです。

 

 本屋さんで、AKA の本や、日本語に訳されているマニュアルメディシンの文献(けっして多くはありません)を買ってきては、書いてあることを少しづつ試してみることから始めました。

 

 ぎっくり腰の患者さんがその場で治った、五十肩で肩が動かなかった患者さんが一回の治療て腕を動かせるようになった、なおらなかった頭痛を手技療法で治したなど、今から考えればビギナーズラッキーですが、当時、「これはすごい治療法を知った」と思ったものです。

 

 ふりかえってみると、診断も治療もきわめて雑であり、あのような治療をしていたと思うと冷や汗ものです。けれども当時は、「これはすごい」と感じました。

 

 それ以来、手技療法に関する本を毎 年10冊くらい、ほとんどは英語の本ですが読んでは試してみるの繰り返しでここ までやってきました。

 

 現在では、つぎのように考えています。マニュアルメディシンは、科学的な診断・治療の体系であり、その有効性は明らかである。また一般的な医学の考え方とけっして対立するものではなく、医学の一領域として問題なく理解できるものであり、とくにリハビリテーションの分野では効果的なツールである。また、ふだんの外来診療でみられるポピュラーな訴えや診断に対して、確実かつ最良の治療法の一つであると。