赤いアメと青いアメ、どっちから食べるか?こんな小さなことでもなかなか決められない子供でしたが、二十歳のころに(これではいかん!)と思って読んだのが「はじめに行動があった」(アンドレ・モロア著)です。これを読んで衝撃を受け、以来考えつつ行動し、行動しつつ考えるのを心がけてきました。いいことも悪いこともあったけれど、おおむねこれで良かった気がします。今回はいかに行動することが大事なのかをお話しします。
1 行動とは脳の働きである
行動するかどうかを決めているのは、ひたいの奥にある脳の前頭葉という場所です。以前は大人になってから脳の機能を変えることはできないと考えられていました。ところが最近の脳科学から、脳はいくつになってもトレーニングできることがわかってきたのです。手足や体幹を鍛えることができるのと同様、脳も鍛えることができます。反対に使わなければ、手足と同じく脳もしなびてきます。
練習すれば速く走れるようになるのと同じように、脳の機能も鍛えることができます。行動する、決断するといった能力もまた鍛えることができるわけです。
2 すべてを分析するのはムリ
ゲームの世界では、短時間で判断することが求められるもの(サッカーや格闘ゲームなど)と比較的時間を自由に使えるゲーム(将棋やカードゲームなど)があります。私たちのふだんの暮らしでも、同じように短時間で決めて行動するときとじっくり考えてから行動するときがあります。ライフステージで見ると、子供のころは瞬発的に自分のしたいことをする時期、大人になると熟考し慎重に判断をすることを学ぶ時期だと言えるでしょう。
ですが大人になっても短時間の判断を求められる瞬間があります。事故に巻き込まれそうになったら、どちらに逃げるか一瞬の判断が生死を分けるときがあります。そこまでではないにせよ、日常でもバーゲン会場のように短時間で物を決めなければならないときがあります。
短時間で何かを判断し行動するとき、あらゆることを分析する余裕はありません。それでもうまくいくようにするにはどうしたらいいのでしょうか?
3 カンに従え
そこでだいじなのが「カンに従う」ということです。見た瞬間、聞いた瞬間に「コレだ!」と思うことがあったら、迷わず飛び込んでみる。まずやってみて、それでどうなるのか見てみる。うまくいくならゴー!だめならやめればいい。いい意味で臨機応変、状況に応じて方法を変えたり、もっと自分がやりたい方向にシフトしていく。心も体もかろやかにステップを変えていく。年を重ねるとこういったことが苦手になってくる人がいますが、はじめにお話ししたように脳は鍛えることができます。「いまさら」「私は苦手」「もう年だから」というフレーズを使わずに、ちょっとやってみて、後から考える。これは脳の若返り運動にもなります。
カンが働くとき、じつは言葉にしにくいさまざまな情報を脳は解釈しています。悩んでいろいろ考えたけれど、最初に思いついたことが正解だったという経験は誰にもあるはずですが、脳の働きから見てもうなずけることなのです。
4 行動こそリハビリ
からだを動かすこと=元気と考えて診療していますが、外来で診ると腰の重い方たちが多いと感じています。万全の構えができるまでじっと様子を見ていると、「へたな考え、休むに似たり」ということわざ通りになってしまいます。少しだけ「傾向と対策」をお示しします。
・時間がない… ほんとうに時間がない人もいますが、たいていの場合は言い訳になっています。5、10分でもいいので、こまめに頻回に体を動かしましょう。テレビ体操でも、ストレッチでも、軽い散歩でもオッケーです。ちりも積もれば山となりますから。
・運動すると疲れる… あまりにもつらいときはドクターに相談してください。多くの場合は、運動不足による体力低下です。ちょっと疲れるくらいなら適度な運動ですから、しばらく続けると楽になってくると思います。
・ 病気(けが)がある… 運動の可否・注意点をドクターに相談しましょう。多くの慢性疾患では運動は禁忌でなく、むしろ体に良い・必要であるとされています。
・ 気が進まない… 自信がない・やったことがないので不安・人前に出るのがおっくうだ・お金がかかるのでは?など引っかかりがあるなら、知り合いに聞いたり、見学してみるのも手です。でも案ずるより産むが易し。長い人生経験の中で皆さんもわかっているように、たいていのことはやってみれば何とかなるものです。