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「ほっといていい痛み」をみわけるには

 

 

町のクリニックの役割は、ゲートキーパーだと言われています。ゲートキーパーとは、門を通すか通さないか判別する門番のことで、転じていいものと悪いものをみわける意味で使われています。からだの故障にはほっといていいものといけないものがあり、できるだけシンプルに確実にみわける(診断する)ことが必要とされているわけです。今回のお話です。

 

1 ほっといてもいい痛みとは

 

 先日ジョギングをした後、腰が痛くて伸びにくくなりました。一夜明けると痛みはかなり良くなっていて、ほっといて良かったなと思いました。ほっといてもいい痛みとは、「重大な病気や故障ではなく、とくに治療をしなくても治る可能性が高い」「痛みはあるがまあまあふつうに暮らせる」「一時的には痛みがあっても、体調には大きな影響がない」タイプの痛みのことです。

 

 良性の痛みと言い換えてもいいかもしれません。しかし痛みそのものはかなり強いことがあり、痛みの強さで計れません。むこうずね(弁慶の泣き所)を思いっきりぶつけたとか、ある種のぎっくり腰(筋けいれん)などはすごく痛いのですが、これに当てはまるでしょう。骨や筋だけでなく内臓や神経系にもほっといていい痛みがあるので、まとめてお話ししてみます。

 

2 なぜ、痛みがあるのか

 

 痛みそのものは体に必要なメッセージシステムです。だから建物に煙検知器やガス漏れ検知器があるのと同様、体のすみずみの故障を見逃さず教えてくれます。痛いと感じたら無理をしない。無理をしないから体が治る機会を作れる。とてもうまくできたシステムなのです。

 

 医療機関でいろいろ調べてもらったけれど、痛みのはっきりした原因がつかめないとき、(原因不明だから、むずかしい病気なのでは?)と思うかもしれません。しかしその多くはほっといてもいいからだの故障です。

 

 たとえ話をしてみます。練馬区外の人に「練馬区で知っている場所」を聞いたとします。としま園、光が丘公園や石神井公園の名は出るかもしれませんが、実際にはもっとたくさんの地名があって、さらに丁目や番地があり、たくさんの人が暮らしています。一般的な病名はその土地の有名スポットみたいなもの、街のあちこちで無数の小さなアクシデント(ガス漏れ・水漏れなど)が起きているのと同じように、有名スポットでない体のあちこちで毎日小さな故障が起きています。そして小さいだけに診察が難しく検査でも異常が出にくく、また自然に治ることがほとんどなので、病名がつかないことが多いのです。

 

3 ほっといてはいけない痛み

 

 では、ほっといてはいけない痛みはどんなものなのでしょうか?

 

  • じっと動かないでいても強い痛みがあって、食事や睡眠がさまたげられる
  •  動かしたときの痛みだが、歩く・座るなどの日常生活にかなりの妨げとなっている
  • 発熱、吐き気、めまい、便通の異常やしびれなど痛み以外の症状があり、しだいに強くなっている
  • 周りから見て、ぼうっとしている・受け答えがおかしいなど意識障害を疑う場合
  •  局所の腫れや熱が目立つとき
  • 不安や興奮状態が続いて、本人や周囲の管理が難しいと感じるとき

 

 こういったときはためらわずにお医者さんにかかることをお勧めします。

 

4 自分でみわけるには

 

 ちょっとどこかが痛いけれど、いつも痛いわけではない。とりあえず仕事や家事はできている。ご飯もおいしいし、夜も眠れる。出るものは出ているし、痛み以外は体調に目立った変化がない。あるいは動くとちょっと痛いけれど、この1.2週間で少し軽くなってきた印象がある。こんな感じのときは、様子を見てもいいと思います。

 

 はじめは軽いと感じていたが、しだいに痛みが強くなってきた。痛む回数が明らかに増えてきて、かばう動作がでたり、まわりの人からも気づかれるようになった。こんなときは受診をお勧めします。

 

 痛みそのものは軽いけれど、同時にさまざまなからだの不調も感じるときも要注意です。内臓の病気で痛みが出ることがありますから、深刻な病気がないことを確認するためにも一度診てもらったほうがいいでしょう。

 

 年齢を重ねると、若いころよりあちこちが痛くなるものです。痛みを理解し、上手に判断の材料に使えば、必要以上に恐れることなく、仕事をし、スポーツを楽しみ、自分のやりたいことをする手助けになるはずです。