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ビタミンDを摂ろう・使おう!

 

 

 3月の緊急事態宣言発令から2,3か月たった頃から、下半身の関節痛を訴えてクリニックを訪れる患者さんが増えてきました。比較的年齢が若く、リウマチなどの炎症などの所見はなく、なにが原因かはっきりしないのです。ところがお話を聞いているうちに一つの特徴が浮かんできました。今回はビタミンD不足のお話です。

 

1 腫れもない、熱もない、変形もない

 

 20代前半の女性が膝と足首の痛みの相談で来院されました。1か月ほど前から歩くときに痛みが出るようになったそうです。診察をすると、膝も足首も腫れはなく、熱もありません。関節の動きもなめらかで、ベッドの上で膝を動かしてもまったく痛みは出ません。レントゲンは正常、こういうときには①痛みの出方を細かく聞く②ふだんのくらしを細かく聞き取ることにしています。

 

 お話から、①家の中で歩くくらいなら平気だが、階段の下りだったり、通勤のときなど長く歩くと痛い②3月から在宅勤務となり、外出制限のため必要最低限の買い物以外は屋内で暮らしていた③運動不足解消のため屋内でのエクササイズ(動画を見ながら)を最近はじめたことがわかりました。

 

 そこで患者さんの膝を上から押してぐっと伸ばしてみると、症状の痛みが再現されました。これがビタミンD欠乏症の症状なのです。

 

2 ビタミンDとは

 

 ビタミンB・Cは補酵素で、体内でたんぱく質の合成を助けています。ビタミンDは副腎皮質ホルモンや男性ホルモン・女性ホルモンと同様の化学構造を持っていて、ホルモンに近いと言ってよいでしょう。その働きは、

 

  • 骨をじょうぶにする カルシウムが骨に吸着されて強くなる
  •  免疫系を強くする かぜなどの感染症にかかりづらくする
  •  心をじょうぶにする ストレスに負けず、うつ病などにかかりにくくする
  • ガンにかかりにくくなる ある種のがん(大腸がん・乳がんなど)の予防につながる

 

 ビタミンDの特徴の一つが、皮膚に日光が当たることで体内合成ができることです。ただし、日光が当たるというところが曲者で、本当に100%体内合成しようとすると、昼のさなかに顔と両手の面積に毎日20分日に当たることが必要と言われています。週2回に減らせば、海水パンツ一つで芝生に20分寝そべるのとほぼ同じですから、よほど日中屋外で活動する職種の方以外は、日光浴だけで100%ビタミンDを体内合成するのは難しいと言えます。

 

 そこで食事が大事になります。卵や乳製品など動物性食品に含まれていますが、とくに小魚類やレバー、意外なことにキノコ類には多く含まれます。

 

3 「ふつう」が問題

 

 明治や大正の時代でもビタミンDは不足気味でした。和装は肌の露出が少なく、比較的植物食の多かった当時の日本食では十分に経口摂取することが難しかったのです。そこでタラや深海ザメの肝臓からビタミンD・Aを含む肝油が開発されて、栄養補助食品として使われました。以前は小学校で販売され、年配の方は「あの甘いドロップ!」と覚えているかもしれませんね。

 

 現在は日よけのパラソル、手袋・アームカバー、日焼け止め、美白化粧品など、さまざまな日焼け対策の商品が使われています。一方、オフィスワークの仕事が増え、ほとんど日に当たらずに一日を過ごす方が増えてきました。今はふつうに暮らしているだけでビタミンD不足になる可能性があります。

 

 ある皮膚科ドクターが「日焼けは百害あるが、一利はあるかも」と話されるのを耳にしました。私は、快適な運動をかねて外出し、適度に日光を浴びればむしろ百利があると考えています。

 

4 ビタミンDは目減りしやすい

 

 ビタミンDの体内での半減期は30日未満だと言われています。かなりのペースで消費されますから、日ごろから日を浴びる時間を確保し、乳製品や肉・魚をこまめに摂りましょう。

 

 ビタミンD不足が続くと、体のふしぶしが痛んだり、赤ちゃんのO脚の原因になったりします。冒頭の女性は、昼休みや休日にできるだけ日を浴びるよう努力したところ、1か月ほどで痛みはまったくなくなりました。年配の方でも珍しくない相談なので、まずは毎日の暮らしの中で日向を歩く習慣を作ってみましょう。