毎年6月に練馬医学会・公開講座が開かれていて、今年は私が発表する予定でした。新コロナウイルス騒ぎで中止になったので、ここでミニ発表会をやってみることにしました。
1 オーバユース(使いすぎ)により生じた踵骨裂離骨折のてんまつ
私自身の経験です。約5年前より右側のアキレス腱部痛があったのですが、おととしの10月末、ジョギング中に突然右踵に衝撃を感じて走れなくなり、タクシーに飛び乗り病院を受診しました。そのまま入院、翌日手術を受けました。以来4か月の間、ギブスや装具をつけ、松葉杖を使って暮らしました。はじめのうちは折れた側の足をまったく地面に着けなかったので大変でしたが、装具になってからは部分的に足をつけるようになってだいぶ楽になりました。
4か月ぶりにウォーキングができたときはほんとうにうれしかったです。ゆっくりとしたジョギング、歩きながらのちょっとだけランニングと練習していき、けがより約6か月後にフルマラソンを完走(半分歩き)、12か月後に競歩大会を完歩、16か月後に30キロマラソンを完走(ラン)できました。
2 踵骨裂離骨折とは
かかとの骨にはふくらはぎをつないでいるアキレス腱がついています。ふくらはぎの筋肉がアキレス腱をひっぱると足で地面をけることができます。だから走るときにだいじな部分なのですが、それだけに無理もかかりやすいのです。もともと調子が悪くてかばった走り方をしているうちに知らず知らず骨にひびが入りついには割れてしまったのでしょう。
今のレントゲン写真:アキレス腱を留めるためにかかとの骨に金属のピンが埋められているのがわかります。空港の金属探知機にひっかかるかもしれませんね。
3 スポーツ障害の予防で必要なこと
・練習のあいだに十分な休養を入れる
筋肉だけでなく、骨や腱も運動することで傷つきます。運動の間に休みを入れるだけで体は回復しますが、休みを取らないとやり残した宿題のように治りきらないところが積みあがっていきます。中高生なら一日おきに「きつい・ゆるい」のリズムで練習を続けることができますが、連日「きつい」と体を壊す可能性が高くなります。年とともに休みは増やすべきで、中高年になったら完全オフの日を週1,2日、きつい練習を週1,2日くらいがいいかもしれません。
・筋トレやクロストレーニングを取り入れて体にかかる負荷を分散させる
毎日同じ練習はまずいです。今日は筋トレとか、明日はスイミングのようにメインの練習と全く別のことをとり入れると、からだにかかる負担が分散すると同時に強くてしなやかなからだになってきます。
・準備運動、ドリル、アクティブストレッチなど量よりも質を考えた練習を取り入れる
ランニングならひたすら走る量を増やす、野球なら投球やバッティングの回数をどんどん増やす。これではいつか体が壊れてしまいます。運動好きの人が好きなことだけやっていると、知らず知らずのうちにからだにくせがついていって故障しやすくなるものです。ウォームアップをしっかりやり、動きづくりのドリルやストレッチをとり入れてみましょう。
・自分自身の年齢や体調に気を配る
年は負けたり勝ったりするものでなく、上手に付き合っていくものです。今回の経験で痛切に感じました。いつまでも若くはないが、だからと言ってあきらめる必要もありません。楽しみながら、考えながら続けていきましょう。痛みが続くケースでは、場合によってはスポーツの休止が必要な場合があります。わからないときは相談してください。
4 今回の経験から感じたこと
・ 医師の役割として、急性期の治療だけでなく回復期の肉体的・心理的サポートが重要であることを改めて実感しました。
・ケガの後では、自身が思っている以上に筋力・持久力・バランス機能の低下が生じている。回復の道は決して平たんではありません。
左右の足の筋力差やアキレス腱のこわばりはまだ残っています。今でもトライアンドエラーしながらトレーニングを重ねています。それもまた楽しみ!と思うようにしています。
歩けなかった4か月を思い返すとうつうつとした日々でしたが、きっと良くなる!と信じていました。これって今の皆さんの気分(コロナウイルス騒ぎ)によく似ているはずです。トンネルの先には必ず光が見える。みなさんがんばりましょう。ご清聴ありがとうございました。