(アーカイブ;2006年2月号より)
「痛いときは、歩くのをひかえてください。」「年のせいだから、だいじにしてね。」
こんなふうにいわれた方はいるでしょうか?わたしは、こういう説明がキライです。そりゃ、ときにはだいじにしなければいけない場合もあります。後でお話しますが、きちんと診察すれば、歩いていいときと、歩いていけないときをみわけることができます。たいていのばあいは、歩いてオッケー!
どんどん歩いていいと言うとびっくりする人もいるみたいです。でも、だまされたと思って、歩いてくれれば、結果になっとくするはずです。
でも、なんでそうなの?今までそんなこといわれなかったよ?と思う方のために、ちょっと説明してみましょう。
痛みが関節の中にあるのか外にあるのか
「ひざ」と「ひざ関節」は同じではありません。ひざとは、あしのまん中の折れ曲がる部分のことで、骨もあれば筋肉や皮膚もあります。血管、神経、じん帯のような細かい組織もいっぱいあります。
ひざ関節ということばは、膝の一番おくにある骨と軟骨の部分だけをさします。わたしたちが、「ひざが痛い」というとき、無意識にひざの関節に痛みがあると思いがちですが、よく調べてみると関節ではなくて、まわりの部分(たいていは筋肉)に痛みの原因がみつかることも多いのです。
レントゲンと診察の意味
ふつうのレントゲン写真では、からだの中のほねを写すことができます。見えないはずのものを見ることができますから、すごい発明です。はじめて見た人がびっくりしたのも当然でしょう。でも、レントゲンは万能ではありません。ほねの故障を見ることはできますが、ほね以外の故障を見ることはできません。
早い話が、うちみやねんざのときには、レントゲンで何も見つけることはできません。からだをさわって、熱、はれ、むくみをみつけることで診断できるのです。同じように、ひざの痛みの原因が関節ではなくて、まわりの組織(筋肉など)にある場合、からだをさわって診察することで、はじめて痛みの原因をつきとめることができるのです。
意外と多いのが筋肉痛
だから、からだをさわっていろいろ調べることがだいじです。ひざだけではなくて、太ももやふくらはぎの筋肉、股関節やあしくびの状態もチェックします。細かいことははぶきますが、患者さんが「この辺が痛い」といったところだけを調べてもダメです。意外と離れたところに痛みの原因がみつかることが多くて、なかでも太ももの筋肉に痛みの原因がみつかることが多いのにはびっくりします。
筋肉のストレッチ
ほねや関節の故障のときの治療はあらためてお話しするとして、ここでは筋肉の治療をお話します。ひざの痛みの原因が、太ももの筋肉にある場合、筋肉の中に小さなしこりがあって、さわるととても痛みます。こういうしこりには、ストレッチがよく効きます。
このときのストレッチは、しこりのできた筋肉がよく伸びるようなやり方が必要で、このへんがくふうのしどころです。治療のときはちょっと痛いのですが、まあ泣くほどではありませんから安心してください。うまくいくと、すうっと良くなるので喜んでもらえるはずです。痛くなってから長いときには、ストレッチもくり返し行って、だんだんと痛みをとっていきます。
弱くなると痛くなる
では、なぜ筋肉に痛いしこりができるのでしょうか?筋肉に口はついていないので、代わりに私がお話しましょう。
ズバリ、それは筋肉が弱くなっているのが原因です。強い筋肉とは、しなやかで弾力のある筋肉です。弱い筋肉とは、すじばって弾力のない筋肉です。知らず知らずのうちに筋肉が弱くなっていると、ちょっとしたことで筋肉の中にわずかなキズができます。いつもより長く歩いたとか、階段をたくさん歩いたとか、転びそうになってふんばったとか、そういったことです。
しなやかでばねのある筋肉にはこういったキズはなかなかつきませんが、すじばったもろい筋肉にはかんたんにキズがつきます。このキズがなおるときにしこり状となり、刺激をうけると痛み出すのです。
日ごろの運動がだいじ
だから、日ごろの運動がだいじです。歩いているだけでもいいのですが、いろんな場所を歩いたり、ときどき坂道を歩いたり、時間をのばしたり、ペースを速めてみるのも必要です。いろんな使い方をすることで、しなやかで弾力のある筋肉ができるのです。
ストレッチをまじえたり、ほかのスポーツにチャレンジしてみるのも手です。何ができて、何ができないのか、人それぞれでちがいますが、だいじなのは前向きに考えること。ゲンキに歩けるようになりたいのなら、家にこもって待っているだけではだめ、ということです。治療しながらも、歩いていくことがだいじです。
筋肉以外の故障でも、急性期を過ぎれば歩いたほうがいいのは変わりありません。年のせい、という人を見かえしてやるんだ!そうそう、その心意気なんです。