(アーカイブ;2005年6月号より)
~からだは毎年変わっています~
植物を育てていると、去年はあんなに元気に育ったのに今年は元気ないなあとか、昨年はつぼみもつかなかったのに今年は満開だとか、毎年なにか変化があるのに気がつきます。外の気温、雨の量、肥料のあげ方など理由はいっぱいあるのだろうけれど、植物もやっぱり生き物なんだなあと思います。
あたりまえですが、ヒトもやっぱり生き物です。だから、毎年毎年からだもどんどん変化していきます。元気にもなるし、病気にもなる。よほどのことがないかぎり、悪くなる一方だったり、良くなる一方ということもないはずです。植物と同じように、微妙な違いが大きな影響を与えることもあるはずです。
これは、実感としてはわかりにくい。「いつもと同じように暮らしていたのに、どうしてこうなってしまったのだ?」とか「悪いことはなにもしていないのに、なぜなのだ?」といったお話を聞きます。反対に、「むかしむかし若いころに、これこれの病気だといわれました。だからずっとこうなんです。」といったお話をされる方もいます。
ふんふん。たしかにそういうこともあるでしょう。でも、いつも同じことをしていればいいってものでもないし、むかしがそうだったからといって、今もそうだとはかぎらないんですよ。
たとえば、食べ物です。私は若いころ、シチュウが大好物で、母親が作ってくれたシチュウを、なべをかかえて食べていました。それでも太らない。からだが要求していたのでしょう。そして、青年時代。横浜中華街のそばに住んでいたことがあります。独身なので毎日が外食、中華ざんまいですね。けっこう、太りました。ストレスもあって、体調も悪く、からだも重い。最低の時代でした。そして、現在。りっぱなオヤジになったので、前ほどたくさん食べません。食べ過ぎると調子が良くない。やはり腹八分がいいのかなと思うこのごろです。
だれでも同じような経験があると思いますが、からだの故障がどうして起きるのかをつきつめて考えると、こういった大きな流れ、からだの時々に応じての変化といったものを理解する必要があります。
腰痛の相談を考えて見ましょう。「若いころに椎間板ヘルニアと診断されました。それ以来、ときどき腰痛で困っています。」といったケースです。ヘルニアの診断は本当だったかもしれませんし、ちがったかもしれません。いずれにせよ、原因は運動のしすぎだったり、けがだったりで、突発性におきることが多く、治るときもすみやかです。
成人してからは、ほとんどの人は何かの職業につきます。立ち仕事だったりデスクワークだったり、あるいは重いものをかつぐ仕事だったり、朝から晩まで同じ作業を長いこと続けていると、からだにはそれなりの“くせ”がついてきます。運動をしようにも、時間も場所も余裕がないので(それに休みはくたくたになっているので)、仕事によって体についたくせを矯正するチャンスもありません。この状態でからだに疲労がたまってくると、ちょっとしたきっかけで腰の筋肉や軟骨に故障が生じ、腰痛がおきます。体がかたくなったり、筋力不足になっているのがおおもとの原因ですから、治るためにストレッチや運動が必要になります。
中年になると、若いころの元気はありませんが、それなりの地位や収入のある人が増え、からだそのものは楽をおぼえる時期です。おなかがぽてっとしてくる人も多いでしょう。あいかわらず体のかたさや運動不足が腰痛の大きな原因になっていますが、そろそろ年齢的な変化も目立つようになってくるころです。ストレスも大きく関係してくる時期です。運動だけでなく、生活全般をみつめなおす年代といえるでしょう。
そして、老年期です。からだのどこもかしこも悪くなってしまうというイメージを持っている人がいますが、それはまちがいです。生きているからだには、組織修復力、治癒力があります。それは老年期でも同じことです。ただし、体の余力は少なくなっていますから、若い人のように後先みずになんでもやってみるわけにはいきません。自分のからだと相談しながら、運動や趣味を楽しんでください。
ときには休むことも必要ですが、休みすぎてからだをなまらせてしまうのは問題です。体力を失うのはかんたんですが、もどすのには倍以上の時間がかかることを覚えておいてください。でもあきらめてはいけません。気持ちが前向きであれば、元気になるチャンスはめぐってきます。
人生を春夏秋冬の季節にたとえることがありますが、春には春、秋には秋の楽しみがあるように、人の一生のステージにも、それぞれの楽しみかたがあるはずです。そして、そのときどきでからだの調子も、故障の原因も、対処法もちがってきます。
むかしがそうだったからといって、今もそうだとは限らない。毎年毎年、人間のからだは変っていきます。よくなることもある。悪くなることもある。むかしのレッテルをそのまま貼りつづけることに意味はありません。そのときそのときで、もっともからだによいことを見つけて、実行すればいいのです。
年年歳歳同じならず。あたまも、からだもやわらかく、しなやかに生きていきましょう。