(アーカイブ;2005年5月号より)
「手がこわばるって、リウマチのせいだって聞いたんですけど?」
「リウマチというのは、慢性関節リウマチのことですよね?そういうこともあるけれど、けっこうめずらしいというか、あんまりないですね。どっちかというと、リウマチ以外のことでなってるほうが多いみたいですよ。」
「ほかにどんなことがあるんですか?」
「いちばん多いのは、肩こりのなかまですかねえ。といっても、肩こりの人がみんな手がむくんでくるということじゃないんですよ。肩といってもくびのまえから胸のあたりの筋肉のこりが強くなると手のむくみがでることが多いみたいですよ。」
「どうしてですか?」
「うでのつけ根には太い血管があって、くびから肩のあいだでは筋肉の狭いすきまをとおり抜けているんです。ここで筋肉にしめつけられると、血液の流れが悪くなるんです。静脈は動脈よりもうすくてやわらかくできているぶん、圧迫の影響がでやすいので、うでからさきのむくみがおきるんです。」
「私の場合、起きた直後はむくむんですけど、しだいに感じなくなって、あとはほとんどふつうなんです。」
「よくある相談ですね。日中、からだを動かしているときは筋肉もちぢんだりのびたりしますから静脈の圧迫もそれほどめだちません。でも、ねているときは、数回寝返りするときをのぞけばじっと動かないでいるわけですから、つっぱった筋肉がずっと静脈を押し続けていることになります。」
「くびのまえの筋肉がこることなんてあるんでしょうか?」
「ええ、想像以上によくあることなんですよ。わたしたちがじっとすわったまま動かないでいるとき、あたまやからだをささえる筋肉は力が入ったままの状態です。筋肉は動かすから血液も流れるし疲れも抜けるので、動かさないだけでも疲労がたまってきます。
おまけにねこぜ気味で、あたまがからだの前にでた状態で、手を前にのばしたかっこうをつづけると、くびのまわりの筋肉はとても疲れるんです。これって学校や会社でみんながよくやっている姿勢だと思いませんか?家のなかでも、ごはんをつくったり、アイロンをかけたり、掃除機をかけたりするときに同じようなかっこうをしがちですよね。
それと、みなさん、学生時代まではなんだかんだいってもからだを動かしていたでしょう?体育もあれば部活もあったでしょ。通学の自転車もいまよりずっと速くこいでたんじゃないかな。いろんなからだの使い方をしてたから、からだにもくせがつきにくかったんですよ。でも今は、毎日同じようなからだの使い方しかしなくなっちゃってるから、からだにくせが残りやすいんです。」
「なんだかわかってきました。そうすると、姿勢をなおせば、手のこわばりもなくなる、ということなんでしょうか?」
「おおすじではまちがってません。でもからだにくせがついて長い人は、いいかっこうをしようにもちぢまった筋肉がじゃまをしてできないんですよ。だからちぢまった筋肉をなんらかの方法で伸ばしていくことが必要なんです。」
「ストレッチですか?」
「そう、ストレッチです。やりかたはいろいろあるけれど、むだに力を入れないこと、ゆっくりやること、毎日すること、できれば一日数回すること、これをきちんとしていけば案外早くよくなるものなんですよ。」
「手がこわばる理由はほかにもあるんですか?」
「ええ、もちろん。『こわばり』のイメージはちがうけれど、脳や脊髄の病気でこわばりがでることがあるし、関節があちこちはれてくる多発性関節炎でもこわばりがおきます。関節リウマチ以外にもたくさんの病気があるんですよ。年齢が高くなってくると、手のふしぶしがごつごつしてくる人がいるでしょう?あれは変形性関節症といってほんとうの病気とはいえないけれど、やっぱりこわばりがでることがあります。
それとパーキンソン病のように筋肉がこわばってっくる病気もあるから、見きわめは必要ですね。でも、いま言ったような病気はみんなからだのほかの部分にもいろんな症状がでますから、きちんとみればわからないことはないと思いますよ。」
「くびや肩のこりからくる手のこわばりは、病気ではないんですか?」
「胸郭出口症候群という病名がつくこともあるんですが、やっぱり病気というよりもからだの一時的な故障と思ったほうがいいですよ。運動したり、ストレッチをしたり、くびや肩に疲れのたまるような仕事を減らしたり、やりかたをかえたり、地味な方法だけれど自分自身のくふうで治せる方法があるんだと思えれば、気分も明るくなるでしょう?」
「そうなんです。リウマチじゃないかと思ったら不安になっちゃって。」
「安心するだけでも、楽になる人もいるくらいですから。」