ファンクショナル・トレーニング(2)

生み出された背景

 

 過去20年で、トレーニングの世界はよりファンクショナルな方向に変わってきている。両側を同時に使うバーベルを中心としたプログラムから、片側性で、ダンベルやケトルベルを使用するものに変わってきている。

 

 この流れが加速された理由は、コーチや選手にしてみると、こういった方法のほうが実際にやってみると、「ずっと腑に落ちる」のに気づいたからだ。

 

 そしてその流れはトレーニング室から一般的なスポーツジムに広がっている。

 

 なかには、両側性にバーベルを扱うのではなくて、片側性により軽いダンベルを使い、バランスボールやバランスボードを使うのがファンクショナルだと単純に考えている人たちもいる。

 

 しかし、基本的な考え方はよく理解しているが、それでも部分部分で両側性にバーベルを使うプログラムを意識的に組み入れている人たちもいる。なぜならある部位の関節や筋肉は、全体的な動きの中で役割を果たすというよりも、むしろ体の安定性を保つためにじっと力を入れて固定するのが基本的な機能だからだ。

 

 こういった働きをしているのは三つの筋肉グループだ。

 

  1. 深部の腹筋
  2. 股関節の外転筋・回旋筋
  3. 肩甲骨スタビライザー

 たとえば競技によっては、股関節の単独での回旋の動きが重要な場合がある。そのため一関節の単純な動きのトレーニングであっても、それが競技の一連な動きの中で重要な意味を持つこともあるわけだ。

 

 ファンクショナル・トレーニングをやるうえでのコツの一つは、極端に走らないことだ。多くの場合において立位での数関節の同時運動をするわけだが、それと同じくらい股関節、体幹、肩甲骨周りのキー・マッスル(大事な筋群)の働きが十分あるかどうかも重要なのである。

 

 また、安全であることはとても大切だ。野球で野手が前こごみで捕球するからと言って、強い前屈位でのトレーニングを多くやるのは行き過ぎだ。安全かどうかのラインをどこに置くかの目安はかんたんだ。スポーツをするからにはけがは付き物だといった考えは捨てよう。筋トレをするなら、かならず背中を守ることを優先しなければならない。

 

 コーチにとっての究極の目標は、いかに選手のケガや故障を減らせるかなのだ。勝ち負けより、選手の健康が大切だ。たとえばいくら理論的に正しいと思えるトレーニングをしていたとしても、実際に選手のケガが減らないなら、なにかがおかしいのだ。

 

 そして、口で言っていることと実際にやっていることを一致させ、できるだけシンプルにわかりやすく指導することだ。